雷撃☆SSガール / 至道流星

雷撃☆SSガール (講談社BOX)

雷撃☆SSガール (講談社BOX)

「……こんな世界は狂ってる。人間なんて嘘つきばかり。所詮この世は地獄そのもの。でもそんなことはやっぱり当たり前のことで、大前提なのよ。そんなこと全部わかって、だけどその上で、何もかもぜーんぶひっくるめて『Yes!』って叫びたい。だから私は、世界が嫌いだったとしても、世界を良くしたいって思ってるわ」

さぁ、このクソみたいな世界の上で踊れ! なノリで駆け抜けるライトノベル風ビジネスノベル。
世界征服を語る唯我独尊電波娘リンにキャバクラで出会った零細企業社長のジン。会社にまで乗り込んできたリンの立てたビジネスプランで業界ルールの裏をかき、ギリギリのラインで消費者心理をつき、大企業に正面から提携を持ちかけ、果ては金融市場から資金を吸い上げる投資ファンドまで設立というジェットコースタービジネスストーリー。傲慢でワガママで性格はまるっきり子供、でも世界一のIQを持つ天才というリンと、そこそこ優秀で懐の深いジンのコンビで日本、ひいては世界の経済を駆け抜け、金額についた0の数がインフレしていく疾走感がすごいです。
この世界はまともなんかじゃないというスタート地点。そこから一度も落ちることなくただ加速し続けるスピード感で、まともじゃない世界をまともじゃないなりに駆け抜けていく軽快さと爽快感。はた迷惑なやつではあるけれど、そこには裏表も損得勘定も何一つ存在しないリンというキャラの気持ちよさと、彼女に手を引かれて走り抜ける妙にリアルなビジネス模様。ライトノベル的なキャラだから見せられるような何かで、この頭のイカれた資本主義社会を走り回る楽しさがありました。
メインで登場するキャラクターはリン以外にも良くできた義妹キャラ、優秀な無口キャラ、おバカな天然キャラとお約束テンプレ的。そこに捻りは無いですし、小説っぽくないくらいシンプルな文体と深いところには踏み込まないストーリーも薄いといえばそれまでなのですが、その軽さこそがこの小説の魅力なのかなという感じ。
そして面白かったのはビジネス系の話。作者が実際の経営者ということで実体験ベースらしい各エピソードは、DM業界のルールの隙間をついたSSDMの提案と制度上の問題で長くは続かないだろうという予測にリアルさを感じ、売上の急増で売掛金がばかり膨らんでキャッシュフローがついていかなければ黒字倒産するという話が出てくる辺りでこれは本気だと思わされるような感じ。その後もリンによる身も蓋もない金融市場解説から、市場マジック発動としか言いようのない間接的な株価操作による売却益獲得までやりたい放題。終盤こそ話が荒唐無稽に大きすぎてもはやリアルかどうかすらわからなくなるのですが、それでも説得力を持って語られる市場経済や現代の社会についての話は、個人的に共感出来る部分が多かったこともあって非常に面白かったです。
そんな感じに、ラノベ的キャラクターとビジネスという食い合せの悪そうな組み合わせで、だけどこの組み合わせでしかできない何かを生み出していた一冊。その組み合わせ故に間口は狭いかもしれませんが、商学部卒で現在社会人でラノベ読みな私としてはとても楽しめました。
今のこの世界を蹴り飛ばしながら愛しているような、そんな爽快な物語。面白かったです!