桜の園 / 嶽本野ばら

桜の園

桜の園

お嬢様学校を舞台に有志で集まった生徒たちがチェーホフ桜の園」の舞台を演じる、という基本のストーリーはあるのですが、ここに現れたのは圧倒的カオスでした。
お嬢様学校と姉妹制度という設定自体が「マリア様がみてる」オマージュで、その物語の中に出てくるのはアニメ、ラノベに果てはVocaloidまで多種多様なネタ、そして私は分からないので気が付かなかったのですが恐らくはアイドルネタも。そしてこの作品で面白いのは、そのネタの扱い方でした。
普通オタクネタやパロディネタは前提とか前フリがあった上で、あくまでも作中キャラによるメタネタみたいな扱い方をされることが多いのですが、この作品はそうではありません。メインのストーリーラインと全く同じ次元で挟まれるネタの嵐、その密度たるやもうどうしていいものやらというレベル。最近のアニメ作品からネット文化まで、作者の最近の趣味趣向をそのままシェイクしたかのように、演じられるチェーホフの戯曲の中演じているキャラクターがストライクウィッチーズの背景を背負っていたり、常磐台的な設定で「ミカサはミカサは」と喋ってみたり、果ては皆で「お兄ちゃん大好き」ってどういうことかと。
お嬢様学園で紡がれる物語も、元々の戯曲「桜の園」も、数々のネタも、全てが同じように扱われて、パッチワークのようなひとつの作品に。なるほどMADノベル。メタではないのでどこにも誰も突っ込まず、冒頭の開幕から終幕まで、ただひたすらに駆け抜けていきます。それはまるで、この終わりゆく聖マリアンヌ学園自体が、作者の頭の中を整理せずにそのまま出したみたいな。でもきっと、インプットの多すぎる今の時代、同じようなものを好んでいる私だって、このくらいのカオスを抱えているんじゃないかという気もします。
正直呆気にとられる面が強くて、話として面白かったかと言われれば微妙な所ではあるのですが、試みとしては面白いと感じる一冊でした。ただ、同じような趣向の作品をもう一冊読みたいかと問われると、それはないかなという気がしますが……。