ゼロ年代SF傑作選

秋山瑞人冲方丁海猫沢めろん桜坂洋新城カズマ西島大介長谷敏司元長柾木というメンバーにこれは読まざるを得ないと思ったハヤカワのゼロ年代SF≒リアル・フィクション傑作選。
私自身はゼロ年代の感覚にどっぷり浸かっていて、むしろ他の年代の感覚がわからないという人なので、これを読んでもとても普通に受け止められるというか、ゼロ年代とはこういうもの的な何かはあまり感じないのですが、強いていうならばネットワークが発展した時代のコミュニケーションの、そして人間のあり方的なテーマが良く取り扱われているのかなと思ったり。ただ、本当に普通に読めて、普通に面白かったというのが私の感想になってしまうので、どちらかというともっと上の世代の人や今の中学生くらいの世代の人がこの短編集を読んだ時に、何に共感できて、どこに違和感を感じるのかの方が興味のあるところではあります。
作品の中で特に面白かったのは秋山瑞人「おれはミサイル」、長谷敏司「地には豊穣」、桜坂洋「エキストラ・ラウンド」。
中でも地上とは隔絶された大空を部隊に、意思を持った航空機とミサイルの対話で綴られる物語な「おれはミサイル」が本当に面白かったです。航空機が主役だからこその地上、墜ちるという意味のずらし方、ミサイルと航空機の異文化コミュニケーション的側面、そして人間の世界とは別の原理で動く無機物だけの世界を通じて、生と死について描いている辺りの発想と構成はすごいの一言。純粋に物語としても、航空機とミサイルの軽妙な会話あり、大空の空気を感じられそうな空戦あり、そしてその先に見える何かもありと非常に面白く、素晴らしい短編でした。こんな作品を見せられたら、秋山瑞人はちゃんと読まなければと思います。
「地には豊穣」は「あなたのための物語」で登場したITPにまつわる短編。ITPという人間を書き換える手段を踏まえた上でも、人の積み重ねてきた文化というものの必要性にこだわる辺りが作者の小説らしいなと思いました。ただ、そこに拘りながらも、過去からの積み重ねとしての文化や価値観ではなく、ベーシックな状態から選択可能なものとしての文化を描いているのが今の作品なのかなと。そしてこの作品、きっと他の国だとここに「宗教」というものが大きなウェイトを占めるのだろうなと思うと、現在の日本だからこそ描かれた作品なのかなとも思いました。
「エキストラ・ラウンド」は「スラムオンライン」の番外編的位置づけの作品。ネットゲームの世界と現実の世界を対比させながら描いているのですが、その相関性というか、二つの世界に持たせた意味合いの捉え方が凄く自分の感じているものに近くて共感出来る作品でした。ネットゲームの世界は所詮データの集積に過ぎず、いつかは意味を失う現実とは切り離されたものであって、それでもそこにいる自分たちの行為と結果は、他に代え難い意味を持つ。ラストはベタで都合の良い話なのかもしれませんが、このネットワークの繋がり先に、そのくらいの可能性を見たっていいんじゃないかと、そんなことを思う短編でした。