年間日本SF傑作選 結晶銀河

結晶銀河 (年刊日本SF傑作選) (創元SF文庫)

結晶銀河 (年刊日本SF傑作選) (創元SF文庫)

読んでみたい作品がいくつかあったので手を出してみた今年度日本SFの短編傑作選。いわゆるジャンルSFな作品が多くて、よみ慣れていない私にはいまいちどう読めば良いのか分からないものも多かったのですが、それを差し引いても読み応えがあって楽しめる一冊でした。すごく素朴に、人の想像力の広さというか、色々なことを考えるものだなぁと思ったりとか。

特に面白かった作品について短めの感想を。


光の栞 / 瀬名秀明
本の修復を生業としてきた職人と、科学者の女性が創る、生きる本。普通に考えたらグロテスクなそれを、綺麗で端正な文章で、どこまでも美しいイメージのものとして描いていくのが魅力的でした。書物たちの歌声が響くラストシーンまで、ただひたすらに綺麗な話だったと思います。


エデン逆行 / 円城塔
もうただひたすらに何を言っているのか分からない時計の街の話。全然理解の及ばない、全く自分の考えているものとは別次元の世界のものなんだけれど、確かなロジックのもとに汲み上げられているようには感じる不思議。そしてそれを読んでいて、なんとなく面白いと感じるのが凄いと思いました。


ゼロ年代の臨界点 / 伴名練
明治時代、日本SFの第一世代、ゼロ年代の出来事を描いた評論。3人の女声を軸に書かれたそれは丸々擬史なのですが、まるでこの時代に本当にこの世界が存在していたかのように感じさせてくれる壮大なホラ話っぷりが素敵でした。日本で初めて月面の土を踏んだ女性!


allo, toi, toi / 長谷敏司
「あなたのための物語」で描かれたITPを用いて小児性愛の児童性的虐待犯罪者の「好き」を整理しようとする話、なのかなと。「好き」というものを、脳を言葉で分解していくような過程の、触れてはいけないもの、あるいは触れたくなかったものに触れている感じ。そして解体すればするほどの、救われなさ。どう受け止めていいのか分からなくて、読み終わってしばし言葉を失うような小説でした。