展翅少女人形館 / 瑞智士記

展翅少女人形館 (ハヤカワ文庫JA)

展翅少女人形館 (ハヤカワ文庫JA)

人から球体関節人形しか産まれなくなった世界。ピレネーの秘境にある修道院。奇跡的に人の姿で生まれた少女たち。内向きに内向きに閉じた世界で紡がれる、人形へと至る物語。
ひとつの物語として精緻に作りこまれた作品というよりも、作者の美意識の集大成というか、とにかくこの世界をこの小説の中に表現しようとした結果として、この物語が生まれてきたという印象のある作品でした。美しいものと醜いもの。清いものと淫らなもの。無機質なものと生々しいもの。閉じた世界の中で少女たちの織り成す物語は、たとえおぞましくても、淫靡であっても、決して下品にはならない。幻想的で、浮世離れした、そんな世界を描こうとする作者の執念すらを感じる一冊と感じました。
どこまでも内側に向かっていくような作品だからこその、少女たちの間にあってぶつかりあう感情の濃さ。そんな彼女たちの暮らす、閉ざされた修道院の中で起こる出来事の異様さ。繰り返し描かれる人形という人に在らざるもののモチーフ。思わず読んでいてくらくらしてくるような物語。特に中盤にかけて、フローリカとの対決としてミラーナの踊るバレエのシーンは思わず息を呑むものがありました。個人的には序盤からここまでに描かれている、3人の少女たちの在り方と関わり方の描かれ方が甘さと気持ち悪さのバランスが絶妙ですごく好きです。
そして後半に入ると描かれるキャラクター同士の関係性はパターン的になって薄まるのですが、その反面人形と閉じた世界というテーマ的なものが浮かび上がってくる感じ。閉じた世界でしかもそれが少女の世界であるなら、いつかどこかで「普通」の世界というものに侵食されて、その特別さは失われるものだと思います。ただこの作品の場合には、人形しか産まれなくなった世界の中で全てが人形へと向かっていっていて、そこで閉じた世界が永遠となるような印象がありました。逆に普通の世界を志向する者たちが異形になるという倒錯をしている感じ。
成長も変化も滅びさえも通り越して、ただそこに永遠の人形だけが残るような歪で美しいイメージが、読み終えた後にも強烈に残っているような一冊。正直読んでいて理解しきれない所も多かったのですが、何か不思議な力のある作品を読んだという気がします。