花咲けるエリアルフォース / 杉井光

花咲けるエリアルフォース (ガガガ文庫)

花咲けるエリアルフォース (ガガガ文庫)

二つに分かれて戦争を続ける日本。桜色の超兵器と中学生パイロットたち。小さく閉塞した世界の中で、少年少女の織りなす痛みと切なさと儚さをぎゅっと詰め込んだような物語でした。
とにもかくにも、作者の趣味がこれでもかとつぎ込まれたような一冊。そして、その作者の趣味は、特定の世代の一部の人たちにとってもハマりすぎるくらいにハマるものではないかと感じます。とりあえず、私はこの作品が、その悪趣味さこみで好きです。
民国と皇国に分かれて内戦の続く日本。世界中のソメイヨシノが散った後、時間を止めて咲き続ける靖国神社。その9本の桜に選ばれた接続子の少年少女たち。彼らにだけ扱える、桜の花びらを模した様な形状で桜色の光を放って飛ぶ攻撃機《桜花》。そしてメインヒロインとなる少女にして接続子の一人である桜子は、皇国の帝。
この国の戦争を知っている人たちに不謹慎と言われても仕方が無いような設定は、戦争から遠く離れた世代の私にとっては、ある種の魅力を、その不謹慎さがもたらす刺激を含めて持っているのだと思います。桜と天皇のイメージに重ねられて、過剰なまでに強調される滅び失われていくものの美しさ。桜色の光を散らしながら、突っ込んでいくことしかできない超兵器。戦争の物語に感じるロマンチックで感傷的な部分だけを凝縮したような描き方は、悪趣味だけれど、とても魅力的に映るのです。
主人公は選ばれ、力を持ちながら、意味と目標を持てない少年。桜花隊として周りに出てくる美少女のキャラクターたち。どこまでも鈍感で受身な少年と、それぞれの何かを抱えて苛烈な戦いに挑む少女。重すぎるものを背負い、自分を自分で壊すようにしながら戦い続ける子供たちと、戦いの中で悩み苦しみながら、どこか生の感触から隔てられたような少年。差し挟まれる中学校生活という日常とその崩壊。哀しいできごとと、最悪の真実、そしてほんの少しだけ救われるラストシーン。
主人公がこれは桜の物語だと言うように、戦争そのものは起きていても描かれることはなく、ただその中で痛ましくも儚く美しい何かが描かれていくような感じです。どこかで見たようなところも多い、私たちの世代の好きなものをぎゅっと集めたような一冊。これは、90年代から00年代を経て、私たちの病気が純粋な一つの結晶となったような物語でした。そのことはもちろん気持ち悪くも感じるのですが、それ以上に、抗いがたいくらいに魅力を持っていると思います。私は、この小説が大好きです。