消えちゃえばいいのに / 和智正喜

消えちゃえばいいのに (富士見ファンタジア文庫)

消えちゃえばいいのに (富士見ファンタジア文庫)

このタイトルに、東条さかなのこのイラストで、そしてこのあらすじ。内容も明らかにビーンボールを主張するパッケージに違わぬ一冊でした。そしてどことなく香る懐かしの富士ミスっぽさ。
主人公浅倉一樹が突然美術部4人の少女に告白され、ハーレムラブコメ方面をかすめたと思った次の瞬間、事態はジェットコースターのように別の方向へ一直線に走り出します。死神モルが持ってくる100人のリスト。一樹に関わった人間が連ねられたそのリスト通りに、人が、ひたすらに殺されていく。
一樹の周りで壊れていく日常は、何か底が抜けてしまったかのよう。どこか様子のおかしい周りの少女たち、親友の姿、そして積み上げられていく死人の数。あまりに無秩序に氾濫する死は作品のリアリティを根こそぎ奪って、読んでいて感じるのはひたすらに不安感。当たり前の顔をして揺らぎ続ける世界の不安定さが、割りと精神的にクるものがあります。そういう意味では、疲れているときに読むと心が不安定になる劇薬系の作品かと思います。
そして死人が100に近づいていく中で、明らかになる真相。ああなるほどと思うと同時に、今まで形作られていたこの薄っぺらで悪趣味極まりない世界が、いったいどこをスタート地点にして、逆算の形で生み出されてきたかを知って、それもまた非常に悪趣味だなと思うのでした。なるほどこれはハーレムものの極北。ただ、この趣味の悪さは、個人的には結構好きだったりもするのです。
中盤のひたすら人が死んでいく場面でダレる部分があったり、真相解明にもう一つカタルシスがなかったりで、衝撃的な展開や真相があるだけにもう少し切れ味が良ければなと思うところもあったりしたのですが、最初から最後まできっちりブレない、何かをやりきった感がある一冊でした。