先生とそのお布団 / 石川博品

 

先生とそのお布団 (ガガガ文庫)

先生とそのお布団 (ガガガ文庫)

 

 これを素敵な物語だなんて言ってしまうのは気がひけるのですが、でも読み終わった後に、とても良いものを読んだと思わせてくれる一冊でした。

売れないラノベ作家の石川布団と、しゃべる猫である先生。その1人と1匹を中心に描かれる物語は、作者の半私小説の色合いを帯びています。でてくる作品も、レーベルも、即売会も、名前こそ変えてありますが完全に作者の経歴に符合していて、これまでに読んできたファンほど、ああ......となるところが多いのではないかと。

そしてそのラノベ作家と先生の苦悩の日々が、どこか淡々と、作者にしてはシンプルな文章で綴られていくのがとても良かったです。執筆の苦しさ、振るわない売上、打ち切り、いつまでも出ない新作、編集会議を通らない企画。編集者との関係、才能ある売れっ子作家との比較、ファンの存在。もっと激しい喜怒哀楽があるだろうそれらが、先生という存在もあって、それでも愚直に書き続ける、どこか穏やかな日々にも見えるような不思議な感じ。そしてそれがクライマックスの展開に、大きな流れの中で書き続けることの意味に繋がっていくのがすごくすっと腑に落ちる感じで。

厳しく冷たいだけではなく、優しいとも、温かいとも何かちょっと違うなとも思うのですが、読み終えてどこか安心するような気持ちが生まれる小説でした。