星降プラネタリウム / 美奈川護

 

星降プラネタリウム (角川文庫)

星降プラネタリウム (角川文庫)

 

大きな、美しいものをテーマにして、何かを失ってきた人たちの再生という物語を、暖かく、美しく書く人だなと思います。花火をテーマにした「ギンカムロ」のそうだったし、そう言えば音楽をテーマにした「ドラフィル」もそういう話だったなと。今回のテーマはプラネタリウム、そして星空。期待を裏切らない、美しく、素敵な物語でした。

星空を資源に観光地化され大切にしてきたものが奪われた気がして、そして故郷を捨てて上京した昴が配属された職場は、プラネタリウム。「星の魔女」の異名を取る望月の下で、解説員の業務に就くことになった彼は、プラネタリウムに訪れる人たちと、そんな彼らに解説として何を伝えればいいか考えるうちに、胸に抱いていた「人は何のために星を見るのか」という問いに向き合うことになります。そしてそれは、いつしか彼自身が、捨ててきたものに向き合うことに繋がっていく。

交わした約束、あの日の記憶、変わらない星空。大いなる魔女の手に操られ輝くそれが、過去と今を繋いで、観光地になったが故に離れた島へ、彼を星空の解説員として返すことになります。それは逃げ続けた彼自身区切りのためでもあり、また、かつての約束を果たすため。

プラネタリウムに行きたくなる、むしろ綺麗に星空が見えるところに行きたくなる、美しい喪失と再生の物語でした。良かったです。