【小説感想】竜と祭礼 1-3 / 筑紫一明

 

竜と祭礼3 ―神の諸形態― (GA文庫)

竜と祭礼3 ―神の諸形態― (GA文庫)

 

 見習いの魔法杖職人イクスが、併合された東方の王族の娘ユーイの持つ、亡き師匠が作った杖修理の依頼を引き受け、その芯材として心臓が使われたおとぎ話の生物である竜に迫っていくという物語が1巻。そして、ある街の祭りと魔女の謎に迫るのが2巻。どちらも、魔法を使ったバトルのような派手な展開ではなく、文献にあたり、聞き込みをして、実地での調査を進めていくというフィールドワーク的な手法で、伝承上の存在に迫っていくというのが面白いシリーズです。

そういう作品なので、歴史や宗教、その村が受け継いできた文化などが重要なヒントとなっていて、そこの設定が厚いのが地に足のついた空気と、一歩ずつ調べていくという学術調査的な楽しさがあります。宗教の新派が否定したことで断絶した祭事に手がかりがあるとか、そういう調べて知っていくことのワクワク感が良いなと。

そんなふうに1巻は「竜」、そして2巻は「魔女」というロマンのあるテーマを追いかけていく物語ですが、3巻は少し毛色の違う話になっていて印象的でした。

というのも、3巻は確かに亡霊や究極の杖というテーマが掲げられて入るのですが、ほぼ権謀術数の話なのです。マレー教新派の神学会議に連れてこられたユーイ。異教の民である彼女は誰の何の目的でそこに来たのか。いずれ国を動かすであろう宗教会議でそれぞれの思惑が入り組む中で、偶然その街の修道院で杖作りを依頼されていたイクスと、もう重なるはずがなかった運命が少しだけ触れるようなお話です。

それまでも割とシビアな世界観で、特に滅ぼされた国の王族として人質のような形で連れてこられたユーイの周りには政治が絡みついていて、変わり者たちが仲良くフィールドワークをするだけにはならなそうと思ってはいたのですが、ここまでやってきたロマンティックな探求にまるごと冷や水をかけるような話を持ってきたのは驚きでした。

ただ、この作品が提示してきた世界観の中で、極めて善良な少女だったユーイと純朴な杖職人見習いだったイクスの青年期の終わりの話をするのならばこうなるよなという納得感は強くあります。異国の民としてのユーイ、魔法が使えない杖職人としてのイクスという、彼女たちが部外者であることはずっと強調されていて、それならば、この国のあり方に馴染み、その枠の中で生きるという道は選ばれようがなかったのだなと。結果、善良だった少女は故郷のために喰えない政治家として、究極の杖を夢見たはずの青年は魔法杖のあり方を変える存在として大人になり、その話にロマンチックな幻想は不要なのでしょう。

2巻で魔女という仕組みが解き明かされた時も綺麗だなと思ったのですが、それ以上に3巻通じてこの結末に帰結したこと、彼と彼女が手に入れたものと失ったものが、悲しくも美しく感じる作品でした。デビュー作ということもあってか、情報や感情を追いかけるのが難しくなるところもありましたが、とても好みなシリーズでした。