【小説感想】6番線に春は来る。そして今日、君はいなくなる。 / 大澤めぐみ

 

6番線に春は来る。そして今日、君はいなくなる。 (角川スニーカー文庫)
 

 地方都市の高校生の3年間を、4人の視点から、作者らしい饒舌な一人称で駆け抜ける物語。その語りと群像劇の構成が、高校時代を描くのにぴったりで、良き青春小説でした。

高校デビューした地味な優等生の少女に、流されるままにスター選手となったサッカー少年、家庭に問題を抱え夜の街で過ごす不良少年、華やかな笑顔と明るい性格で逆に回りをシャットアウトする少女。そんな4人はそれぞれの物語を持っていて、彼ら彼女らがお互いに見る姿と、自分自身の抱えているものが一致するとは限らなくて、それでも関係は生まれて、そして変わっていく。分かりあえないこともあるし、ふとしたことで距離が縮まることもあるし、悪いこともたくさんあれば、捨てたもんじゃないことだってある。びっくりするような大事件が起こるではなく、恋愛だとか、遊びだとか、部活だとか、受験勉強だとか、上京だとか、そんなありふれたイベントと共に連ねられるのは内省的な語り。それでも3年という時の中で、彼らの関係も、彼ら自身だってちょっとずつ変わっていく。入学時の彼ら彼女らの先に、まったく違う形で現在がある。その先にはもちろん、未来がある。

そういう、なんとも言えない微妙な青春時代のニュアンスを描くのがとても上手いなあと思ったし、そういうものを表現するのに、この勢いで押し流していくような文体はとてもハマるのだなと思いました。

個人的には、4人の中ではちょっと普通から外れているセリカの話が好きです。彼女の章を読み始めてすぐには性格悪いなと思った外面と内面のギャップ。でも、自分自身すら押し殺して、思い込もうとしていたものと、そうならざるを得なかった理由を知れば、そんな簡単なものでは無いことも分かって。他人に踏み込ませないことで自分を守っていた彼女が、踏み外せば沈んでいくギリギリで救われたのは、ルールを破って踏み込んできた香衣の存在と、望まぬままに育ての親となった正弥の意地によるものだったのが、すごく良いなと思います。何をもってちゃんとしているかは分かりませんが、セリカにはちゃんとした大人になって、報われてほしいなと思いました。