アイドライジング! 3 / 広沢サカキ

アイドライジング!〈3〉 (電撃文庫)

アイドライジング!〈3〉 (電撃文庫)

学園祭やらタキとの関係やらエリザベス予選やらてんこ盛りの内容ながら、中心はアイドライジングの舞台に立つアイドルであること、その壁にモモがぶつかるお話な一冊。
序盤はべた甘百合ちっくな学園祭話でメイド喫茶をモモとオリンがやったり、タキがモモに絡んできてモモの貞操がピンチだったり、さすがにおしりずもうはどうなのかと思ったりと、ちょっと目眩がしそうになったのですが、タキが怪我をしてからの後半の展開は素晴らしかったです。
アイドライジングはただ純粋なスポーツではなく、ひとつのショーであるということ。それを理解しているタキのとったエリザベス予選に、覆面アイドルシルヴァーナとしてモモを送り込むという選択。ただ、そこにはアイドライジングを盛り上げるというだけではなく、モモに対するある期待があって。
あまりにもシンデレラ・ストーリーを歩み過ぎて、アイドルであることへの意識の薄いモモ。単純に勝敗を競うスポーツのようにアイドライジングに取り組む彼女が、エリザベス予選で彼女が味わう挫折。舞台の上で見られるということ。自分をどう見せるのか、自分がどう見られるのか。ならば、自分はどんなアイドルとして、みんなの前に立ちたいのか。競技であり、ショーであり、そこに立つものはアイドルであるというアイドライジングの性質から、遅かれ早かれぶつかるべき壁の話が、真正面から描かれていて非常に良かったです。
そしてそんな壁にぶちあたる彼女の背中を押した、周りの人々の言葉や行動も良いものでした。特に、今回は出番の少なかったオリンが、へこむモモの背中を蹴り飛ばすようにして送り出す流れはもう、素晴らしいとしか。ライバルにして親友とはこういうことだ的なものがあって、もうこのやりとりだけでこの一冊に十分満足できるくらい好きです。そしてそんな場面の二人を描いた232ページのイラストもまた!
それから、この巻でメインで描かれるもう一人のキャラクターはタキ・ユウエン。普段のセクハラ魔な姿からは中々見えない、彼女の年長者として、先をゆくアイドルとしての姿が描かれていました。こういう人が導いてくれるというのも、モモは周りに恵まれたところかなと思います。そしてそんな彼女にも迷いや弱さがあって、ただそれを彼女が導こうとしたモモの気持ちが吹き飛ばしていく辺りもまた良いものだなと。
そんな感じでとても楽しめた一冊でした。シリーズとしても、一歩ずつ歩んでいくモモの成長が周りのキャラクターの姿と共に描かれていて、巻を重ねるごとに面白くなってきていると感じます。この先が楽しみなシリーズです。