闇の喇叭 / 有栖川有栖

闇の喇叭 (講談社ノベルス)

闇の喇叭 (講談社ノベルス)

ノベルス版を表紙買いをした初めての有栖川有栖
現在ハードカバーで3巻までが出ているシリーズで、この巻は導入編という所。連続殺人事件が起きてトリックがあって探偵と警察による解決があるというミステリではあって、もちろんその部分を楽しめるのですが、それ以上に空閑純という少女を主人公にした大きな物語の幕開けという印象が強い一冊でした。
そしてそのソラを巡る設定がかなり攻めている感じ。戦争後に朝鮮ではなくて日本がロシアとアメリカによって南北に分断されたif歴史。北=北海道との戦争状態のまま膠着状態を続ける日本では、政府による国民に対する思想や自由への締め付けが強くなり、息苦しい空気が蔓延っていて。政府による規制と抑圧というある程度今の世相を写したようなテーマを描きながら、その中でも自ら考えて行動するという自由意志の象徴的に焦点が当たるのが探偵行為という辺りがミステリ作家の書くシリーズなんだなとか。
かつて名探偵と呼ばれた両親のもとに生まれ、探偵刈りの中で母親が行方不明となり、身元を隠したまま母の故郷である田舎町で父親と暮らす少女。そんなソラが、その街でおきたある事件に首を突っ込むことになって、そして。偏った思想、理不尽な規制、振るわれる権力。息が詰まる様な社会のなかで、その生まれに由来する重たいものを背負いながら、そういったものを目の前にして、少女は何故ひとり探偵を目指そうと思ったのか。
キャラクター描写がかなりあっさりとしているのでまだ惹き込まれるというほどではないのですが、友人たちとの関係、変人の匂いのする警視、そして母親の謎といった関係。そして、この日本という国の中でソラという少女が何を見て、何を考え、何を為すのかが楽しみになる一冊でした。