青酸クリームソーダ 入門編 / 佐藤友哉

青酸クリームソーダ〈鏡家サーガ〉入門編 (講談社ノベルス)

青酸クリームソーダ〈鏡家サーガ〉入門編 (講談社ノベルス)

解ってくれとは決して云わない。そんな脅迫めいた希望的観測を周囲にばらまくつもりはない。だけど、もし本当に解らないのだったら、一生かかっても解らないままだろうから、幸せで良かったねとは思う。
嘘だけど。

4年ぶりの鏡家サーガ。久々の新刊でも鏡家は鏡家。最低に気持ち悪くて最高でした。
先の展開を予想する気力を削ぐような滅茶苦茶な展開とか、気分を悪くするためにあるとしか思えない設定とか、そういった部分は相変わらず。ただ、その中に籠っていた、一種異様な切実さみたいなものは昔ほど感じられなくなったかなという気も。この辺りは、読み手である私の変化なのか、書き手である作者の変化なのか難しいところ。
その反面、ストーリーとかキャラクターの見せ方とかは仕組まれた滅茶苦茶というか、非常に綺麗にまとまっているような感じがしました。そういう意味では、鏡家サーガ入門編というのも正しいのかも。作中での「入門編」の意味は異なりますし、そもそも前作までの知識がないと意味が分からない部分も多々あったりするのですが。
話としては、鏡公彦が灰掛めじかという殺人者の少女野殺害現場を見てしまって、「責任をとって」と言われるところからスタート。自分の殺人動機を1週間以内に推理する探偵になれというめじかの要求に振り回される公彦という構図。被害者の娘に当たる女の子との交流。稜子姉さんや潤一郎兄さんへの協力依頼。そして繰り返される事件、明らかになる真実、その先にあるめじかの選択とは……といった感じ。
概略だけ追いかければ流行の要素で組み上げました的な物語は、しかし鏡家サーガ。「こういうお話が好きなんですよね?」「こういうキャラクターが好きなんですよね?」と矢継ぎ早に投げかけながら、次の瞬間それを無造作に踏み潰して見せる辺りはもういっそ快感の領域。稜子のオタクネタマシンガントークに代表されるネタの散りばめ方も相変わらず。ミステリに見せたり怪異ものに見せたり、キャラクター小説だったり超能力だったりと、もはやジャンルすらネタでしかないような。
そしてこれだけ読者に対する悪意を振りまきながら、自分で潰しているそれ自身への愛情みたいなものも感じるのが、この作者の魅力なんだと思います。なんというか、どうしようもないことをどうしようもなく書いてやっぱりどうしようもなくて出口がないような感じ。しかも性質が悪いことに自覚あり、みたいな。
そしてやっぱり妹だった辺りは、とてもユヤタンだなと思ったのでした。