じごくゆきっ / 桜庭一樹

 

じごくゆきっ

じごくゆきっ

 

 ああ、桜庭一樹凄い……と改めて感じました。母と娘、父と娘、田舎町、少女。桜庭一樹をぎゅぎゅっと濃縮したような7つのお話からなる短編集。一気に読むと息が詰まる用な、まさに真骨頂という作品だと思います。

読んでいると、話の構造がだとか設定がだとか、そういう部分はありつつも、何だか理屈じゃない力みたいなものを感じます。表面上は、よくある出来事のようなことが起こっていると分かっていても、人物の視点を通した瞬間、なにか得体の知れないものになるような。心を持っていかれるような。少女を描く時は鮮烈で、もっと上の世代を描く時はもっとどろっとした、文章から立ち上がる呪力みたいなものがあって、これが桜庭作品の力で、私がずっと好きなものなんだなあと思いました。どこか神話的というか、大きな、掴めないものがうごめいていて、読むとそれにあてられるような。

砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」の世界観で描かれた「暴君」「脂肪遊戯」はロリポップで世界と戦った、別の子供たちの物語。子供の世界。大人たち。生き残った彼女が、何と闘って、どうして脂肪を身にまとったのか。

それから記憶をテーマにした3つの作品「ビザール」「ロボトミー」「ゴッドレス」が強烈でした。「私の男」や「ファミリーポートレイト」と繋がるような、愛情だとか執着だとか、そういう本人にもコントロールされない囚われたものの形。歪んだ親からの愛情が、子供を歪ませて、また歪んだ関係が紡がれていくと言ってしまえば簡単なようで、そんな骨組みだけ取り出して片付けるものではないような。

中でも「ロボトミー」。もはや病的な母親の愛を浴びて育った娘と、親を知らずに育った青年の結婚関係、母親の生活への介入、破綻、そして記憶を失い繰り返すようになった娘との再会。特に病院での再会から先の全てのシーン。善意も悪意も、愛情も憎悪も、純粋さも醜さも、そこにあるあらゆるものが狂っているようで、どうしようもなく美しくも感じる、言葉にし難いけれど大変なものを読んだとだけ思う一作でした。本当にこれは凄かった。