ギンカムロ / 美奈川護

 

ギンカムロ (集英社文庫)

ギンカムロ (集英社文庫)

 

 ああ、美しい花火だったと、読み終えてまず思いました。

もちろんこれは文字媒体の小説で、本文中にもイラストがある訳ではなくて、それでも脳裏には、印半纏を羽織った職人たちの向こう、広がる夜空に咲く大輪の花火のイメージが鮮烈に焼き付く、そういう作品でした。素晴らしかったです。

かつて花火工場の事故で両親をなくし、故郷を離れた主人公。ある日祖父に呼ばれ帰郷したそこには、職人として修行中の女性がいて。12年前の不幸な事故。家を離れた青年。看板を掲げ直した老人。地元の大きな祭で打ち上げられる奉納花火。神事で山の神のもとへ連れられる少女。伝統の色濃く残る田舎町で、彼ら、彼女らは何を思い花火を上げるのか。打ち上げて、花開いて、たった7秒。その刹那に、一度は潰えるかに思われた高峰煙火の名前を背負った職人たちは、何を籠めるのか。

この作品は花火職人という職業にスポットを当てたお仕事小説であると同時に、喪失と再生、過去を清算して踏み出すための物語でした。でも、決してそれは後悔でもない、贖罪でもない。銀冠は鎮魂の花火、これは覚悟と祈りの物語。

物語の持つ清廉で凛とした雰囲気、風間絢という女性の在り方、職人たちの生き様、そして花火というテーマが、作者の丁寧で品のある文章にとてもマッチしていて、美しく素晴らしい物語を形作っていたように思います。本当に良かった。好きです。

そして欲を言えば、花火大会のシーズン前に読みたかったなと。そうしたら、久しぶりに打ち上がる花火を観に行ったのにと。その機会はまた来年になりそうですが、次に花火を見るときには、あれは誰のどんな思いを載せて上がっているのだろうと、そんなことを考えるような気がしています。