ストライクフォール3 / 長谷敏司

 

ストライクフォール3 (ガガガ文庫)

ストライクフォール3 (ガガガ文庫)

 

ちょっとこれは凄い。熱い。ヤバい。 

宇宙における技術開発と戦争にあまりにも近すぎるスポーツであるストライクフォールですが、この巻はぐっとそのスポーツとしての側面に寄せてきた感じ。そして慣性制御という全てのセオリーを覆すブレイクスルーの後に来る、新シーズンの開幕戦なんて盛り上がらない訳がなく。

これまであまり省みられなかったチルウエポン耐性と反応速度が重要になり、慣性制御による高速化とリンカーと呼ばれる速度調節テクニックが、従来の宇宙戦を前提に構築されてきたフォーメーション戦術に叩きつけられる。その激動の時代の中でシルバーハンズの一軍キャンプに呼ばれた雄星がぶつかる壁と彼にしか出来ないこと。そして不動のリーダーであったケイトリンに慣性制御への適応という課題が持ち上がり、その牙城を混沌の時代に天才的な攻撃センスでリーダー候補に抜擢された"蛮族"アデーレが打ち崩す。そしてやってくる、前年度優勝チームとの開幕戦。試合の開始から終了まで、カットすること無く一気に描かれるその試合。時代の変わり目の絶対に負けられない闘いは、当然のようにこれまでにない戦術がぶつかりあう死闘となって、その凄まじいこと凄まじいこと。

スポーツ観戦、特にモータースポーツのような技術の側面が強いものを見ていて、一番面白いのはルールが変わった時と、ブレイクスルーが起きた時だと思うのです。収束しつつあった定石がリセットされて、色々なチームが全く新しいアイデアをぶつけ合う混沌の時は、何がどうなるのか全く先が読めず、ただ新しいものが見られることへのワクワク感が半端なくて。

この巻は、まさにそういうワクワクが、もう毎試合が最終回なんじゃないかというくらい熱い展開山盛りで怒涛のように押し寄せてくる訳で、そりゃあ面白くないわけがない。ただ、これは本来セオリーもルールも存在しない架空の競技で、それなのに時代の変換点の目撃者になることに作中の人々と同じように興奮できるのは、ここまでの試合と、そしてキャンプでのアデーレvsケイトリンの闘いがあってこそだと思います。気がついたらストライクフォールという競技のファンだったし、シルバーハンズを必死に応援している自分がいる、みたいな没入感。これはちょっと凄いなと思いました。

慣性制御というパラダイムシフトによって2巻であんな事件が起き、この巻でも政治的な動きは大きなうねりとなっています。それはもちろんストライクフォールと切り離せず、実際雄星がテロの現場でコントラクターでやったことは、もう戦争に片足を突っ込んでいる。

でも、その中でもこの戦争に近い競技を、スポーツとして、スポーツだからこそできる闘い方で闘い抜く選手たちの姿は、戦争とスポーツという2つのテーマを掲げたこのシリーズが、人々の熱狂と共に、ここで見せつけなければいけないものだったのかなと、読み終えてしばらくしてから思いました。抜群に面白かったし、凄い一冊でした。