【小説感想】民俗学研究室の愁いある調査 その男、怪異喰らいにつき / 神尾あるみ

 

民俗学研究室の愁いある調査 その男、怪異喰らいにつき (富士見L文庫)

民俗学研究室の愁いある調査 その男、怪異喰らいにつき (富士見L文庫)

 

民俗学のフィールドワーク以来、周りで不可思議な現象が続き、ついには身の危険まで迫ってきた大学院生の名鳥。覚えのない呪いを解くために、教授から紹介された怪異を喰らうという謎の美青年朽木田と共に再び山間の農村を尋ねると、そこでも不可解な事件が起こっており、助けを求められて……というお話。

古くから続いてきた、その土地の神社と山の神様との関係。民俗学と怪異が掲げられたタイトル通り、伝承や行われた儀式を追う中で、少しずつ明らかになってくるその変容と、名鳥と神山の家を呪っていたものの正体。このあたりの情報の出し方が巧みで、全体像を掴ませないまま、何か大いなる存在と強い感情が渦巻いていることを色濃く感じさせてきます。山、蛇、神山家、そして謎の少女。断片的な情報はなかなかピースがはまらず、それでも、ああこれはちょっとどうしようもないのかも知れないとじわじわ実感させられるような。

そして、明かされる真実も、たどり着く結末も、やはり苦味を伴うものでした。情愛と妄執。神と人の関係と時代の移り変わり。何が正しかったのか、ではなく、それは最初から成立し得なかったもののようでもあって。それでも、同じことが今にオーバーラップしてくるから、選んだ想いも分かってしまって、辛いなと。

ただ、この作品の特異な点はそんな出来事の中心にいるはずの名鳥という存在そのものだったのかなと思います。己自身が呪われた状況に、明らかになっていく真相、そして為さねばならぬ選択。なのに状況はもう最初から詰んでいて、何を選んでもこれ以上のハッピーエンドはきっとなかった。

それでもこの男だけは、この男の視点を通じて描かれるものだけは、ずっと冒険のワクワク感的な空気が耐えないのです。未知のものへの興味も、自分を害する者への恐怖も、朽木田へのほぼ一方通行な親愛も、いっそ清々しいまでの身勝手な決断も、一人だけジュブナイルの世界を生きているようなキラキラした素朴さがあります。

その背景と主観のギャップ的なところが、救われない状況でも不思議と重くならないどこか前向きな空気を作っていて、そこに少しの狂気を感じるのも、この作品の魅力だと思いました。本来混ざらないものを混ぜた結果、独特の味わいがある、みたいな感じ。あと、その結果として軽いノリで危機感なく呪いを引っ掛けてきて朽木田を巻き込む名鳥、だいぶヤバいやつだよなって思いました。