最後にして最初のアイドル / 草野原々

 

最後にして最初のアイドル (ハヤカワ文庫JA)

最後にして最初のアイドル (ハヤカワ文庫JA)

 

 オタネタを起点にして矢継ぎ早につぎ込まれるSFガジェットを推進剤に進化の果てまで突っ走った末に待ち受ける宇宙スケールの起源。壮大で強固な与太話というか、解説の通り悪いオタクの大喜利の延長線上というか、とにかく最高に現在って感じで、最高に頭の悪い賢さのある短編集です。

元々がラブライブのにこまき二次創作である「最後にして最初のアイドル」も、ソシャゲを題材にした「エヴォリューションがーるず」も、ノリとやっていることはだいたい同じなのですが、個人的には後者が好み。

ソシャゲ廃人が今流行りのトラック事故異世界転生した先はソシャゲを模したフレンズたちの世界。海の底の単細胞生物からガチャを回して生体器官を得て進化していく中で、他のフレンズたちを殺してポイントを奪い合う激しい生存競争あり、カードを二枚重ねることによる爆発的な進化があり、フレンド機能によってできた仲間たちの存在があり。そして物語は陸上へ、さらに宇宙へ、そしてこのソシャゲ世界の真理へと至りながら、最終的にまどか☆マギカして、良い感じの百合に着陸します。全然何を言ってるかわからないかもしれませんが、だいたいそんな感じ。なるほどこれがワイドスクリーン・百合・バロック……。

「アイドル」「ソシャゲ」ときて「声優」をテーマにした冒険SF色の強い「暗黒声優」まで含めて万事そんな感じなので、とにかく好きな人は好きだし、分からない人にはさっぱり分からないだろう一冊。ただそれでも、まさに今の時代に悪いオタクをしている共犯関係みたいな、頭のおかしさを最大にして全力で突き抜けろみたいな、そういうビッグウェーブに乗っている楽しさがある作品でした。正直描写は結構グロテスクで苦手な部分も多いのですが、嫌いじゃないです、こういうの。

THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS U149 2 / バンダイナムコエンターテインメント・廾之

 

 「晴(あんた)ができないやつだったら そもそもこんな風に言わないわよ!」 

 ビートシューター(結城晴&的場梨沙)が好きなんですよね。それで、なんでビートシューターが好きなのかが、まさにここに描かれていたんですよね。いやもう、素晴らしいですね……。

勝ち気で意識高くてオシャレで自分が可愛いことを分かっていてそれを武器にアイドルとして上を目指す子と、身体能力抜群のサッカー少女で親が応募したからアイドルになった子と。普段から喧嘩ばっかりしてる2人の間にある信頼関係みたいなもの、とても良いです。この背中を預け合うのが似合いそうな感じ。相方の文句ばかり言ってても他の人が相方を侮辱したらいの一番に怒りそうな感じ。なんかもうアイドルというか、完全に少年マンガ文脈だと思うんですけど、ほんと最高ですよね……。

そんな感じで結城晴の話が最高だったんですが、その前の赤城みりあの話もまた最高でした。この作品は子どもたちの話で、それ故に変にこじれず、妙なしがらみのない素直さが素敵だと思うのですが、それに相対するプロデューサーが大人としては奇跡的に真っ直ぐで裏表なく、彼女たちの目線で手に手を取って進もうとするのが大変素晴らしく、なんかもう尊いとしか表現しようがないです。そうやって明るく元気で前向きな姿を描ききった後で、みりあのお姉ちゃんとしての側面というか、実は周りを見て気を使ってるところに触れてくるのちょっとずるくないですか。

そして、シンプルで可愛い絵と豊かな表情に細かい書き込みにライブシーンの躍動感。全てが丁寧に丁寧に整えられた上での、王道ど真ん中のストーリーが大変に素晴らしいシリーズだと思います。完璧だと思う。本当に。

 

先生とそのお布団 / 石川博品

 

先生とそのお布団 (ガガガ文庫)

先生とそのお布団 (ガガガ文庫)

 

 これを素敵な物語だなんて言ってしまうのは気がひけるのですが、でも読み終わった後に、とても良いものを読んだと思わせてくれる一冊でした。

売れないラノベ作家の石川布団と、しゃべる猫である先生。その1人と1匹を中心に描かれる物語は、作者の半私小説の色合いを帯びています。でてくる作品も、レーベルも、即売会も、名前こそ変えてありますが完全に作者の経歴に符合していて、これまでに読んできたファンほど、ああ......となるところが多いのではないかと。

そしてそのラノベ作家と先生の苦悩の日々が、どこか淡々と、作者にしてはシンプルな文章で綴られていくのがとても良かったです。執筆の苦しさ、振るわない売上、打ち切り、いつまでも出ない新作、編集会議を通らない企画。編集者との関係、才能ある売れっ子作家との比較、ファンの存在。もっと激しい喜怒哀楽があるだろうそれらが、先生という存在もあって、それでも愚直に書き続ける、どこか穏やかな日々にも見えるような不思議な感じ。そしてそれがクライマックスの展開に、大きな流れの中で書き続けることの意味に繋がっていくのがすごくすっと腑に落ちる感じで。

厳しく冷たいだけではなく、優しいとも、温かいとも何かちょっと違うなとも思うのですが、読み終えてどこか安心するような気持ちが生まれる小説でした。

1月のライブ/イベント感想

インフルエンザでいくつかチケットを無駄にした1月ですが私は泣いてない。

Linked Horizon Live Tour 進撃の軌跡 総員結集凱旋公演 1/14 @ 横浜アリーナ

進撃の軌跡(CD+Blu-ray)

進撃の軌跡(CD+Blu-ray)

 

 バンドにダンサーにストリングス、ブラス、ホルン、木管、ハープ、パーカッションにクワイア、背景には進撃の巨人の映像と、ここまでのツアーでやってきたことが全部載せのリンホラ凱旋公演。かなりの数を重ねてきただけあって、最初に見た時とは全体のまとまりというか、チームとしての一体感が段違いになっていてとても良かったです。そしてやっぱりRevoの楽曲は、こうやって大きなステージで、過剰なまでの音の厚さで来る時に輝くなと、ブレイブリーデフォルトのコンサートを思い出しながら思っていました。

そしてリンホラと言いつつ、第二壁でサンホラの楽曲をやってくれると本当にうわああああってなるんですよね。特に今回は聖戦のイベリア改め「凱旋のLinked Horizon Arena」がね、本当に楽しくてね……。領拡か生誕祭またやってくれませんかね……。

 

岸田教団&THE明星ロケッツ 10th Anniversary Tour 2017~2018 ~懐古厨に花束を~(仮) 1/20 @ ディファ有明

LIVE YOUR LIFE

LIVE YOUR LIFE

 

 岸田教団10周年ライブ。私昔から好きだけど、懐古厨ってわけでもないからなあと思っていたのですが、冒頭で10年を遡って振り返るムービーが流れて、初期の曲からライブが始まった瞬間に、ごめん私懐古厨だったわと思いました。あの頃の、好きになった頃の岸田教団の曲が、あの頃とは比較にならないくらい上手くなった今のライブで聞けるって、それはもう幸せなこと以外なにものでもない訳で。

本当にプロって感じになったよなあと思ったところに、ichigoさんのとんでもないMCで変わらないなあと思ったりして、10年を振り返るセットリストの最後に「愛してきたものに救われる日々だ」なんて歌われたらそんなものもう泣くでしょって。

ああ、私は岸田教団好きなんだなって、分かっていたことだけど改めて思うライブでした。

 

Kalafina 10th Anniversary LIVE 2018 1/23 @ 日本武道館

百火撩乱(初回生産限定盤B)(Blu-ray Disc付)

百火撩乱(初回生産限定盤B)(Blu-ray Disc付)

 

 10年。10年ですよ。Dream Portのオープニングアクトみたいな立ち位置で初めて見たあの時からもう10年が経とうとしていて、そしてこれが、この気持ちが10年間追いかけ続けたってことなんだなと思いました。

去年から10周年への並々ならぬ想いは随所に見えていた所に、MCもアンコールも削り取り、ファン投票で上位に入った曲から歌えるだけ歌うセットリストのライブを、あの迫力というか、気迫でやられたらなんかもうね、持っていかれるというか、言葉がないですよね。

これまで10年のKalafinaの集大成にして総決算、全てを噛みしめるようなライブでした。間違いなく特別だった。

 

リスアニ!LIVE 2018 1/27・28 @ 日本武道館

リスアニ! Vol.32

リスアニ! Vol.32

 

 リスアニライブは各アーティストの持ち時間がしっかり取られていて、全組生バンドなのがやっぱりいいイベントだなあと思います。

土曜日は何はともあれOLDCODEXが素晴らしかったです。毎年一回くらいのペースで見ているのですが、最初は声優がやっているユニットくらいの印象だったのが、もうそんな枕詞いらないところにいるというか、これが色々なフェスにバンバン出ている人たちのいるレベルか! って驚くくらいになっていて。めっちゃカッコよかったし、凄かったです。リスアニというイベントの客を尊重しながら、だんだん自分たちの世界に引き込んでいくMCも、前に出た時はそんなもっと尖ってたのにとびっくりしました。

日曜日はミリオンの生バンドが来てよかったって感じでした。ミリオンというか、「Maria Trap」と「流星群」の生バンドね! ほんともう待ってた!! ってね。「Maria Trap」はそうそうこれが聞きたかったの!!! っていう。「流星群」で愛美と作曲者の黒須さんが背中合わせでギターとベース弾いてるのも、ここじゃなくちゃ見れない感じで素晴らしかったです。

あとはTrySail本当に居るステージが上がった感じがあるなあとか、武道館で歌うさユりも良いと思ったのとか、fripSideに貫禄が出てきたと思ったのとか、そんなリスアニライブでした。

君の名は。 Another Side:Earthbound / 新海誠・加納新太

 

君の名は。 Another Side:Earthbound (角川スニーカー文庫)
 

 瀧in三葉、勅使河原、四葉、そして三葉の父の俊樹の視点から語られる君の名はのサイドエピソード集。

瀧が三葉の中に入ってる時にどう暮らしていたか、勅使河原が自分の家と町のことをどう思っているのか、四葉が姉や神社のことをどう思っているのか、三葉の父が何故瀧in三葉が来た時に驚愕し、その後住民を避難させたのか、そういった映画の補完をするエピソード集なのですが、通して読んで感じたのはこの町における宮永神社という信仰の特異性。

映画は入れ替わりと時間軸のズレを細かく繰り返しながら構成されていて、SFとして見ている感覚が強かったのですが、これを読むと、この作品、徹頭徹尾、宮永という宗教の話をしていたんだなあと感じます。日本神話の主流からも切り離された土着の信仰における、彗星、組紐、結びの意味合い。遥か昔から流れ続ける時の中で、何が導かれ、そして「あるべきように」なったのか。

結ばれ繋がり巡りゆく、宮永神社信仰という大きな流れの中に、瀧と三葉の物語も、俊樹と二葉の物語も全てはあったのだなと、そんなふうに思いました。

りゅうおうのおしごと! 7 / 白鳥士郎

 

 意味がわからないくらい熱くて、めちゃめちゃ面白いです。凄かった。ここに来てちょっともうとんでもないですね、このシリーズ。

今回の主役は八一たちの師匠である清滝鋼介九段。身体も頭も衰えは隠せない、オッサンというか初老に差し掛かる年齢の彼が、順位戦という将棋界のシステムの中でC級1組への降級崖っぷちで見せる足掻きっぷり、最高にみっともなくて、最高にカッコよかったです。おじいちゃん先生輝いてたよ……。

とんでもない大ポカも増えた、体力も気力も続かなくなった、最新の研究にはついていけない。飛ぶ鳥を落とす勢いの若者たちが、自分の過去を否定して昇っていく。そんな引退の見え始めた下り坂で、名人挑戦者だった過去とプライドを振りかざして、かつてあれ程嫌っていた老人に自分がなっていると気がついた時に、たどり着いた気持ち。はるか格下の若者に頭を下げ研究会を開き、嫌っていたソフト研究も取り入れて、周りから見たらおかしくなったかと思われても、何をしてでも勝ちたいんだという想い。未来の名人とまで呼ばれる神鍋を相手に回したまともにやったらどうしようもない最終戦、八一たちが見せてきた諦めない関西将棋の真髄を、その師匠の姿に見ました。いやほんと格好良かった。

そしてこの小説、そんな師匠の物語や、師匠と八一たち一門、そして愛娘桂香さんの関係だけで一冊書けそうなのに、天衣のマイナビ本戦や勢いに乗る八一の昇級の掛かったリーグ最終戦もあるという異様な密度。それを研究と定跡で読みを省略する現代将棋、将棋ソフトの見せる新しい景色、いつしか忘れられた過去の差し筋という対比や、ソフトの指す将棋と人間が指す将棋という現在進行系のテーマで貫いて、一つの流れにまとめ上げてるのがちょっともうやばいです。

なんというか、構成が洗練されているというより、トップギアに入ったまま落ちない熱量で、このキャラクターたちのドラマと将棋界というものを描ききるんだという執念めいたものを感じます。そして最終的に、人が指して、人が勝って、人が負けるから、その泥臭さも、残酷さも、醜さも全て含めて将棋は面白いんだと、物語の力でねじ伏せるように実感させるのが本当に凄まじかったです。

あと、姉弟子は放っておいたらあまりに危うすぎる人だと思うので、八一は何かしら責任を取った方がいいんじゃないですかね。あの子だけどうやっても幸せな未来がイメージできないんですけど……。

 

Just Because! / 鴨志田一

 

 素直じゃなくて、拗らせて、面倒くさくて、でも真っ直ぐな高校生たちの恋模様。この原作小説を読んでアニメも全話見たのですが、泉と夏目に焦点を当てて内面描写多めの小説、相馬と森川の関係を含めて群像劇として描くアニメ共に素晴らしかったです。

卒業3ヶ月前に地元の高校へ戻ってきた泉。旧友と、想い人との再会。片想いが連鎖する恋模様は、押せ押せな感じではなくて、もどかしくて切ない感じ。5人の交流が表面化させたのは隠し通すはずだった拗らせきった片想いで、抱え込みながら、抱えきれないそれは本当に面倒くさいな君たちという感じですが、彼ら彼女らは一人として性格が悪かったり嫌な子だったりする訳ではないので、前向きな気持で読むことができます。

受験に推薦、初詣、野球、部活動にLINEのグループ。ちょっとしたトラブルも含めて、実在の街で描かれるのは高校生らしい出来事。その中でそれぞれの気持ちが、少しずつ、ある時は思いがけず動いて関係性が変わっていく、そのさじ加減が絶妙で、流石に青春ものに定評のある作者だなと思いました。特に夏目が相馬への気持ちに整理をつけてからの、小宮の先輩をデートに誘ってもいい? からの「ダメ」はすごいキレだったなあと。口ごもるのでも、流すのでもなく、思わず出たダメってまた。この辺り、エピソード追加もされていたアニメ版も毎回の引きが強烈で面白かったです。

それから、もう明らかに負けヒロインとして登場しているのに、泉に一番まっすぐに恋をしていた小宮さん。本当に良い子で、なんで幸せになれないんだろうと思うのですが、ただこの子も夏目を好きな泉が好きで、負けると分かっているからこそあんなにまっすぐに動けていたような感じもあって、それはそれで拗らせていたんだろうなあと。

「だって、そういうえーた先輩を、私は好きになったんじゃん」

負けヒロインの台詞として、これ以上に切なく、美しいものはないって思います。

そんな感じのほろ苦くてだだ甘な青春恋愛小説。あと人生二回分くらい徳を積んだら、来世の来世のその次辺りでこんな青春送ってみられるのだろうかと思いつつ、堪能しました。