進撃の巨人 25 / 諫山創

 

 この作品が単純な人類vs巨人の構図ではないことが明かされたのだから、遅かれ早かれこうなるだろうとは分かっていたのですが、まさに戦争の始まりという巻でした。

どちらかだけに理があるのではなく、それぞれがそれぞれ生き残るためにぶつかりあう。タイバー家がマーレに明かした真実とパラディ島への宣戦布告を一つの正義だと認識した上で、敵を駆逐するまでは止まれないと強襲を仕掛けたエレンが一線を踏み越したのは、かつて巻き込まれた彼が住民や子供を巻き込んだことからも明らかで、これはもう巨大な脅威に対する少年の復讐譚では無いのだなと。お互いに共存ができない者たちが、憎しみで憎しみを繋いでいくような戦争には救いがなく、話がより重くなったように思います。

エレンの登場から張り詰めた緊張感のまま、演説をバックにしたライナーとの対話からの襲撃、そして真っ黒な服を纏った調査兵団の立体機動という力が島の外でふるわれるさまは息を呑むものがありました。いや、凄かった。

友達以上探偵未満 / 麻耶雄嵩

 

友達以上探偵未満

友達以上探偵未満

 

 これまでもやたらめったら尖った探偵を様々に生み出してきた麻耶雄嵩最新作は、また新しい探偵の在り方を生み出すものでした。

3編からなる1冊で、2編目までは読者への挑戦状形式のミステリ。女子高生探偵、伊賀ももと上野あおの桃青コンビが、ももの姉である刑事の空から協力を得つつ事件解決に挑むというもの。考えなしに突っ走るアッパー系なももと、人見知り気味で理知的なダウナー系のあおのコンビが良い感じのライトなミステリになっています。

とはいえ実際論理的な推理をしているのはあおの方で、ももは思い込みと行動力で素っ頓狂な推理をぶち上げるだけのよう。ただ、解決編まで来ると、論理的な部分を担当しているあおと、直感とひらめきを担当しているももという、分業制の名探偵であることが分かるので納得。

それなら帯のキャッチコピーである「勝てばホーム、負ければワトソン」の推理勝負とは? という感じなのですが、そこは3編である「夏の合宿殺人事件」で明らかに。2人で1つの名探偵である桃青コンビの始まりの話が、それまでのもも主観の視点では見えなかった歪みと共に現れて、この作品自体が名探偵という構造をめぐる物語だったと明かされるのがなるほど麻耶雄嵩という感じです。

欠けたピースとしてワトソンを欲したホームズが、自分だけではホームズになれないと悟って片割れを欲する。役割を奪い合う推理勝負の裏にあったあおの心情は、これまでに見えていた2編の見え方を変えるだけのもの。名コンビのように描かれていた桃青コンビはお互いがお互いを切り離せない、名探偵という構造から生まれた共依存関係。もも視点だと見えていた微ラブ要素までも、探偵という枠組みに回収されていくのが、最上位に探偵という概念が君臨する麻耶世界という感じです。

そしてこの関係、自分がコントロールをしていると思っているあおの方が依存が深くて、ももが論理的思考ができるようになって独り立ちされたら困るから、ももの推理を強めに否定しているというのがまた。そのくせ、対人交渉一般は、ももに出会った頃はこんなにじゃなかったと言われるほどももに頼りっきりというのがかなり危ういです。

思った以上に危ういバランスの上で成り立つ2人で1人の百合探偵はつまり、名探偵という構造が生み出した、共依存百合という関係性。なるほどタイトルは「友達以上探偵未満」でしかありえない訳で。

ただ、この一冊ではそういう関係であることが提示されただけで、できれば続編で、この2人の間にあるヤバさが浮かび上がってくるような事件が読みたいなと思いました。いやだってこれ、片方が片方を殺して最後の事件、みたいな事もあっておかしくないポテンシャルを秘めていると思うんですよね……。

しかしこう、「化石少女」でも思ったのですが、作者の女子高生描写はもうちょっと自然にならないものかというのは少し思ったり。

魔法使いの嫁 9 / ヤマザキコレ

 

 アニメと同時に1部完というタイミングとなった作品ですが、アニメ版と比べるとマンガの方が細かい台詞などが多くて、なるほどなあと思う部分がありました。

チセとエリアスがぶつかったのは、人間と人外のカップリングを描き続けた必然で、ただチセが普通の人ではないのもまたこの作品の特徴で。チセは体質もあって魔法使いたちの世界に異様に親和性が高くて、けれど彼女には他を犠牲にすることに対して譲れない一線がある。ただ、それが人間らしさと呼ぶべきかはわからないし、エリアスは合理的な魔法使い的思考をするけれど、やっぱりそういうモノとは少し違っていて。だから、この作品は人外×少女ではあるけれど、それ以上にエリアスとチセの物語であるのだなと思います。

チセを救うためにステラを犠牲にすることを選んだエリアスと、カルタフィルスを止めるために自分を犠牲にすることを選ぶチセ。チセの度を越した自己犠牲は考えなしと何度も言われ続け、カルタフィルスにもそれを責められ、それでも貫き通したもの。エリアスも自分の判断が間違っていたとは今でも思わないと言う。

それでも2人は、話し合って、ルールを決めて、互いを隣において歩むことを決めた。価値観が根底から異なるから、お互いを合わせる事はできないけど、話し合って進むことはできる。だからこその異種間コミュニケーションであり、だからこそ彼女は「魔法使いの嫁」。タイトル通りの、素敵な結論にたどり着いたなと思いました。良かったです。

相坂優歌 ファーストライブ「屋上の真ん中 で君の心は青く香るまま」 4/5 @ Zepp DiverCity TOKYO

 

屋上の真ん中 で君の心は青く香るまま (初回限定盤A)CD+BD

屋上の真ん中 で君の心は青く香るまま (初回限定盤A)CD+BD

 

 相坂くん、アニサマで「セルリアンスカッシュ」を歌っていたのを見てとても良いパフォーマンスだったけど、その時はそれ以上に刺さったわけではなくて、でもアルバムの試聴動画を見て、なんというか「こっち側感」があって気になって、それで気がついたら1stライブを見に来ていたんですけど。いや、ヤバいですね。あまりにも的確に私の好きなゾーンの真ん中を貫いていったので、途中からこれはあかんと思ってずっと見ていました。

盛り上がる曲もあるけど、わーっと盛り上がって楽しい!! というライブではなくて、相坂優歌という人が考えていることと伝えたいことを、歌で気持ちの限り表現して、MCでもダウナーな雰囲気のまま訥々と語っている感じ。考えすぎて後ろ向きな中の折れない芯の強さというか、追い詰められた中の前向き感というか、アリプロのカバーを歌っている時の声と表情に、ああこの人は何らかの生き辛さと大向こうを張って闘ってきた人なんだと思った瞬間にやられていました。世界に優しくなってほしい、大丈夫、好きなこと見つけて、生きてとファンに向けて繰り返しながら、自身に言い聞かせてるみたいなあのMCもね、本当にああいうのね……。

前のめりに感情が入って、特に切ない曲を歌っている時に泣いているみたいに震える声が印象的。あと可愛いけれど可愛いだけじゃないっていうニュアンスの歌声がめっちゃ好みです。「瞬間最大Me」が最高にハマっていて素晴らしい。あと、本人が好きで今回のアルバムで曲提供をしてもらった大森靖子ALI PROJECTクリープハイプのカバーがどれも驚くくらい合っていて、本人の嗜好や方向性と資質が一致しているのが、表現者としてめっちゃ強いなと思いました。そういう意味で、これからもっと研ぎ澄まされていくのが楽しみです。

曲はキャッチーだけどどこか内向きな感じが売れてメジャーになってというタイプではなく、狭く深く刺さるところに刺さるタイプの人のように思うのですが、そういうところも含めてめっちゃ好きです。 ライブに行って良かった。

 


相坂優歌/瞬間最大me ミュージックビデオ(Short ver.)

閻魔堂沙羅の推理奇譚 / 木元哉多

 

閻魔堂沙羅の推理奇譚 (講談社タイガ)

閻魔堂沙羅の推理奇譚 (講談社タイガ)

 

 まずこう、私の読んだことがある限られた作品から持っていたメフィスト賞のイメージって、何かが尖って突き抜けてるけど全体としてはピーキーとか、倫理観が崩壊してるけどめっちゃ魅力があるとかそういうものだったので、まさかこんな真っ当にバランス良くレーダーチャートを書いたら全部の項目で高得点みたいな作品がメフィスト賞……? という気持ちが。

それは置いておいて、第55回メフィスト賞受賞作は現世に未練を残した死んだ人が閻魔大王の娘の審判で自分の死にまつわる真実を探すというゲーム仕立ての推理小説。4編収録されていますが、死に至るまでのパートに推理のための要素は散らばっていて、沙羅との会話を経てその場で推理するという形式が出来上がっているので読みやすいです。推理のために証拠を集めたりする訳ではなく、閻魔大王の娘は何でもお見通しなので答え合わせをするだけなのですが、その過程で生前の彼ら彼女らに見えていなかった大切なことが浮かび上がてくるのが面白いです。人は失敗から学ぶとか、バカは死ななきゃ治らないとか言いますが、そりゃあ死んじゃったなんて大失敗を経たら人間変わるもんだよなあと。

特に優秀な同僚に囲まれ、自分に自信をなくしていたサラリーマンが主人公の2話と、家を出ていった息子の行方を知らぬまま死を迎えた老婆が主人公の3話が良かったです。自分の能力の無さを卑下してきた男が、実は他に代えがたい存在として周りから慕われてたみたいな話。そして3話の、善く生きてきた彼女だからこそ、繋がるべき縁が実は繋がっていたみたいな話。どちらも人徳のなせる技というか、もう本当に人徳の化身かよという感じの2人なので、そんな彼らが報われる話は泣けるのです。

沙羅という閻魔大王の娘による審判が話の中心にあって、その判断基準が世のため人のためになることをすることが是であるというものなので、作品自体の倫理観もその方針に強固に沿っている感じ。とにかく善く生きることが、巡り巡って自らの得に繋がる、信賞必罰の法則がどのお話においても貫かれているので、読みやすいし、読んでいて気持ちがいいです。人間社会のルールとは別の価値基準なので、若干それは犯罪ではみたいな所もありますが。

高いリーダビリティに、そこだけ人の世ならざるものとして浮き上がる沙羅という美少女のキャラクターとしての魅力、難しすぎず分かりやすい推理に、老若男女バラエティに富んだ軽すぎず重すぎずのエピソード。ライトだけど満足感のある、シンプルに面白いものを読んだなと思える一冊でした。あと表紙のイラスト、最高だと思います!

3月のライブ/イベント感想

ANIMAX MUSIX 2018 OSAKA 3/3 @ 大阪城ホール

この面子を横浜の方でやってくれれば楽なのにと思いつつ今年も大阪城ホール。やっぱりANIMAX MUSIXはカバーが楽しいです。村川梨衣, 内田真礼, 大橋彩香で「Q&Aリサイタル!」が最高に楽しかった。綾野ましろの「pray」と鈴村健一の「曇天」も良かったし、GRANRODEOの「ギリギリchop」は何かを通り越して笑ってしまった。

本人楽曲ではへごの新曲「NOISY LOVE POWER☆」が完全にライブで楽しい曲なので、5月の単独が楽しみです。あとはポピパとOxTのまさかのコラボとか。あと、西沢幸奏は曲を聴いた時からこれ絶対にライブ一曲目にこのイントロまでのやつ使う気でしょと思っていた「Gray Blaze」をc/w曲なのに頭に持ってきていて、本当に期待を裏切らないなと思いました。好き。

 

アイドルマスター シンデレラガールズ劇場 すぷりんぐふぇすてぃばる 2018 3/4 @ 舞浜アンフィシアター

THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS LITTLE STARS! Snow*Love

THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS LITTLE STARS! Snow*Love

 

そうそう、シンデレラはこれだよこれ! ってなった雑でバラエティ色強めなイベント。前半のトーク&ゲームパートのアイドルってなんだっけな雰囲気こそシンデレラガールズだと思ったし、その空気がこうして後輩に伝承されていくんだなと思いました。大型ツアーのストイックな感じもいいけれど、やっぱシンデレラはこうだよなあという安心感のあるイベント。あとライブパートは「Snow Love」めっちゃ良い曲だなって。

 

 

ZAQの日 vol.2 3/9 @ 下北沢GARDEN

全編アコースティックアレンジでお届けされたZAQライブ。MCも緩めな感じでファンクラブイベント的な空気のあるライブでした。デジタルでわちゃわちゃでとにかく速い感じのZAQライブ曲が好きなのですが、これはこれで贅沢で良いものだなと。

 

凛として時雨 Tour 2018 “Five For You 3/11 @ Zepp DiverCity TOKYO

#5(初回生産限定盤)(DVD付)

#5(初回生産限定盤)(DVD付)

 

時雨はどこまで行っても時雨だなあと。あの、轟音の中を切り裂くようなツインボーカルと無機質な手触りが作る世界観と、全くそぐわないまま同居するピエール中野のMCみたいな。痺れます。

 

THE IDOLM@STER SideM 3rdLIVE TOUR〜GLORIOUS ST@GE!〜 福岡 3/25 @ 西日本総合展示場 新館 A・B・C

THE IDOLM@STER SideM 3rd ANNIVERSARY DISC 03

THE IDOLM@STER SideM 3rd ANNIVERSARY DISC 03

 

LVで。次から次へと聞きたかった曲がどんどん来る圧力に押し負けたようなライブでしたが、実際のところ硲先生がメインMCだとわかった時点で死んでいた疑惑も。S.E.Mでの「∞ Possibilities」からのソロ曲「Learning Message」はちょっと言葉になりませんね……。

あと、特に身構えてなかったところからTHE 虎牙道というか小松昌平が刺さってびっくりですよ。殺陣もダンスも流石なんですけど、それ以前に存在があまりにも牙崎漣を体現していて何なんですかねあれ。「RAY OF LIGHT」でステージ上のカメラをわしゃっとやる小松昌平が牙崎漣すぎてもう。あとあの曲、Cメロで謎ラップが入る流れ、こういうの知ってるーって感じがして良いですよね。

 

 

りゅうおうのおしごと! 8 / 白鳥士郎

 

タイトルホルダーの供御飯万智に月夜見坂燎女流玉座が挑戦する山城桜花戦をメインに、間の小咄的に八一たちの短編が挟まる変則的な構成の一冊。

親友同士の闘いに勝負の厳しさや女流の置かれた状況を絡ませ相変わらずの熱さを見せる対局と、姉弟子とあいが焼肉を挟んで喧嘩したり、JS研をなんちゃってアイドルにしてみたり、天衣お嬢様のゲームを作ったりする、あまりに馬鹿馬鹿しい短編の落差に目が回ります。そして最後に控えるは著者が7歳年下(八一とあいと同じ!)の妻との馴れ初めを語る惚気あとがきというこのジェットコースター展開。

というのはまあ置いておいて、勝負の世界では絶対的に弱い女流棋士という存在、しかも下から姉弟子やあいのような化け物に突き上げられている2人が、己のすべてを賭けてぶつかり合う闘い。山城桜花、きらびやかなタイトルであるけれど、同時に鴨川で公開で着物を纏い指すような、そういう扱いのものなのも分かっていて、それでも。奨励会に進んで打ちのめされ女流に戻り、それでも勝負にすべてを捧げた燎と、チャレンジすることすら出来ず、観戦記者という別の道も求めた万智。ライバルにして親友である二人の戦いは、お互いに予想外の指し手で思いの丈がぶつかり合う勝負で熱かったです。

強さこそ全ての世界と言いながら、それでもその闘いは屈指の名勝負になって、人々を熱狂させる。桜舞う川辺で行われた、美しく苛烈な闘いにはそれだけの価値があった。そして、八一たちと比べれば弱いと描かれて、彼女らはそれでも女流のトップで、彼女に憧れ彼女を追いかけ、勝利を祈る綾乃ちゃんのような子供もいる。強さと才能を冷酷に語りながら、そこに焦点を当てるほどに、それだけではない何かが見えてくるのが、とても魅力的な作品だと思います。