【映画感想】劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト

 

 TVシリーズも関係性と概念を濃縮2倍でそのまま投げつけてくるような作品だったスタァライトですが、劇場版は凄まじかった。TVの時はキャラクターコンテンツということである程度手心があったのだろうと思うくらいに、アクセルを踏みぬいた映像と演出で圧倒され続ける2時間。今回は濃縮5倍還元なしでお届けという感じでした。

 

初回は卒業の物語であるという前情報とロンド・ロンド・ロンドで出てきた舞台少女の死というフレーズを念頭に置きながら、さてどうなるのだろうと思いながら見始めたのです。ところが、冒頭から一気の展開にそれどころではなくなり、まったく速度を緩めない展開に何かやべーものを見てしまったという感想しか出てこなくなるばかり。ただ、そういうものが来ると身構えたうえで2回目を見ると、この映画、滅茶苦茶懇切丁寧に説明してるじゃないかと。

テーマは卒業、別離、覚悟、けじめ、そして未来への物語。モチーフになる電車は次の駅へと止まらず、舞台少女もまた次の舞台へと止まることはできない。オーディションは既に終わっていて、私たちはもう舞台の上。再生産され続ける常在舞台上、そこで過去を引きずれば、それはすなわち舞台少女の死。上掛けを落とされても終わらない舞台を、だから進むしかないと。普通の女の子の幸せを焼き尽くしてでも、舞台の上で感情を生き様を捧げて、その瞬間だけのきらめきを放ち続けることが、彼女たちが進む道には求められているから。トップクラスの歌劇学校の更にトップエリートである彼女たちは、舞台の上に届かなかったたくさんの舞台少女の死体の先に、そうやって進み続けるのだと感じる物語でした。

そしてこの映画、ストーリー的には本当にそれだけです。描かれるのは、このテーマを冠されたそれぞれの舞台。彼女たちの関係性であり、生き様であり、感情であり、その全てが舞台という形を取るのが、映像音楽演出全てを込めた会心のクライマックスのような後半のレヴュー×5連発。観客席すら巻き込みながら即興劇のように瞬間を燃やし尽くすあり方は、「“劇場”でしか味わえない{歌劇]体験」と謳われるのも納得です。

 

それから舞台の観察者の象徴たるキリンの扱いが凄く良かったです。舞台をきらめかせるための野菜燃料になって燃え尽きていく姿、残ったトマト。全てを舞台に晒した彼女たちの一方的な観察者ではなく、ある種共犯的な関係として描かれたのは、私も一人のキリンとして、本当に有り難い限りだと思いました。それだけの覚悟をもって推してるんだよ、見たこのない舞台が見たいんだよ、なら燃え尽きて糧とさせてもらえるなら、それは望外の喜びでしょうと。

 

 

さて、レヴューですが、いやもう凄かったんですが、それぞれに感想を。

ふたかおは、賭博場、クラブ、デコトラというビジュアルイメージに乗せて熟年夫婦の喧嘩のような二人の関係性がぶつかるレヴュー。お世話をしてお世話されての腐れ縁、未来を定めた香子と、その隣に並ぶため今度はわがままを通す双葉。理屈じゃない情のぶつかり合いと、それでも絶対に別れないだろうという信頼、預かりものとして託されたバイクを携えたエンドロールの香子が最高に良かったです。

ひかまひは、華恋の元を去ったひかりに、まひるが舞台に上がることを求めるレヴュー。露崎まひるというキャラクターの持つ、負けた人間だからこそ、怖さを知っているからこそ持てる図太さが最高に輝いていて、まひるやっぱり好きだなあと思いました。最後の口上、まひるらしさが溢れていて痺れた。

じゅんななはまあ凄かった。眩しいと思った星見純那が変わってしまったと否定して、今ここで腹を切れと迫る(足でぐいとやるシーンのフェティッシュさ)のは、再演を繰り返した大場なな的な傲慢で、けれどそこに説得力はある。それを借り物ではない自分の言葉で否定する純那。ここは自分の言葉を使うことに意味があるところで、だけど壊された自分の弓ではなく突きつけられたななの刀を武器にするの、あーってなりました。そしてお互いに背を向けて対称の構図となる別離。そんな○○知らない! も泣いちゃったも対になる演出で最高でした。この二人は冒頭の面談シーンで出した進路とエンドロールの実際に進んだ道が変わっているのも良い。

そして真矢クロがもっと凄いというかなんですかねあれは。こちらはライバルという対の関係。なんにでもなれる空っぽの器、演者としてのトップスタァ天堂真矢から、感情を引き出して見せるクロディーヌ。「あんた今一番可愛いわよ」に対する「私はいつだって可愛い!」はTV版のやりとりも踏まえて最高です。そして共に燃えながら落ちていく炎って、いやもうなんなんですかねこの二人。

そしてクライマックスはかれひか。オーディションでひかりと二人でトップスタァになるという約束を果たして、何もなくなってしまった舞台少女愛城華恋の死。シーンごとに差しはさまれてきた、ここに至るまでの華恋の過去から見えるひかりへの想い。

そこから、止まらない電車にたどり着いてしまったポジションゼロの棺を載せて、全ての思い出を燃料にして焼き尽くし、アタシ再生産される愛城華恋。向き合うのは、華恋に引っ張ってもらった過去を、華恋のファンになってしまいそうな自分を、舞台に立つという恐怖を過去にして、自罰的で自虐的な自分を振り切って、私がスタァだと名乗りを上げる神楽ひかり。そして二人の約束の象徴たる東京タワー(約束タワー)は折れ飛んでポジションゼロに突き刺さり、愛城華恋は次の舞台へと進んでいく。

いやもう、モチーフの使い方が美しすぎて、そのくせ映像と演出はバリバリに狂気じみていて、本当にやべーものを見たなと思うレヴューでした。最後だからと言って長くない(体感)のもいい。このレヴューにはこれが必要にして十分という感じで、素晴らしかったです。

【小説感想】魔法少女育成計画 breakdown 前・後 / 遠藤浅蜊

 

 亡くなった天才にして変人の魔法使いが何らかの研究を行っていた無人島。その島に魔法少女を二人まで連れてくるという奇妙な条件付きで、遺産相続の話し合いに集められた縁者たち。

このシリーズでそう来たら平穏無事に話が進む訳はなく、一人の魔法少女が殺されたことをきっかけに、魔力を吸い取る大地、錯綜する思惑と陰謀、現れた圧倒的暴力を振るう女神の姿の魔法少女と、状況は混迷し、各陣営は追い詰められていきます。

 

読者応募の魔法少女と過去に登場した魔法少女、そして新キャラたちを加えた魔法使い+魔法少女2名の各陣営が、怪しげな研究が行われていた無人島で極限まで追い詰められていくまほいくスピンオフは、Web連載作品だったということで今までのシリーズとはちょっと手触りが違う感じでした。

まほいくは初期の印象が強いので、設定とキャラクターを組み上げてから、唐突に理不尽に壊していく、そのカタストロフに魅力があるシリーズだと思っています。ただ今回は、連載作品ということで全体構成は綿密に作られている感じではなくて、毎回テンションを保ったまま駆け抜けていくという感じ。結果、やっぱり人死にの多い作品ではありますが、壊すのではなく、積み上げていく物語になっていたと思います。

まず、単純に厚い(上下で約1000ページ)ということでそれぞれのキャラクターの描写も多く、話が進んでいくうちに愛着が生まれてきます。キャラクターを描くのが明らかに上手くなっているので、もう滅茶苦茶に死ぬだろうに、ああ死んでほしくないなと思ってしまいますし、強烈な展開で引っ張っていくので、どうなっちゃうんだろう、生き延びてくれるだろうか、あんなの倒せるだろうか、誰が何を考えているのだろうかと次への興味を引っ張り続けてくれる感じ。そして混沌と暴力の嵐が吹き荒れ、魔力を奪う大地に苦しみ各陣営が傷ついていく中で、最終的にフランチェスカという敵に対して力を合わせて立ち向かう流れになるのが熱いです。

この辺りはもう少年漫画かって感じなのですが、各キャラクターの追い詰められた状況での決意も行動も格好良いし、争いごとのプロにはプロなりの、悪党には悪党なりの、魔法使いには魔法使いなりの、野良魔法少女には野良魔法少女なりの、ただの子供にだってただの子供なりの矜持を見せてくれるのがシンプルに大変良かったです。まさか邪道だと思っていたまほいくでこんな王道な話が出てくるとは思わなかったし、それがこんなに面白くなるとは思わなかったので驚きでした。皆に見せ場が用意された分、展開的にも構成的にも盛り盛りで特に後半はあまりスマートではないのですが、テンションと熱さで全てを超えていくような勢いがあります。読んでいる気分的には、鬼滅の最終決戦とかそういう方向に近い。

 

そうやって王道に来た物語の魅力の一端はキャラクターとその関係性で、相変わらず世知辛い魔法の国と魔法少女周りの流れるような描写や、魔法少女のシステム上、返信前は老若男女、人間以外も問わないという部分が生み出す多様性や関係性、それぞれの持つ特異な能力とその活かし方といったところ。

そんなキャラの中ではドリーミィ☆チェルシーが最高でした。自分の信じる魔法少女の在り方を目指してきた34歳ニート魔法少女オタク女が、母親から働けと言われて魔法少女としての仕事に応募してみたという期待値ゼロから始まり、仕事を始めればトラブルは起こすは施設は壊すわで評価マイナスに至ってからの後半ですよ。奪われ傷つけられ操られ、魔法少女ドリーミィ☆チェルシーならどうするか、その信念に従って強大な敵に戦いを挑む。何度やられても一番可愛い、一番魔法少女らしい我流の戦い方を突き詰めて立ち上がり続けるのが格好良くてヤバかったです。チェルシー株はストップ高から天井を突き抜けて、何言ってんだこいつと思っていた「ドリーミー☆チェルシーにお任せよ!」に震えることになるとは思わなかった。あと、その筋のプロであるマーガリートからチェルシーへの評価が異様に高いのがちょっと面白かったです。

他のキャラもなかなかキマっていたり、強かったり弱かったり、ズルかったり真っすぐだったり様々でしたが、名門魔法使い家の少女イオールと何の魔力も持たない少年統太の関係も良かった。いやほんと今回は王道攻めてきたなっていう。だからこそエピローグで出てきた単語においお前それはやめろふざけるなと思いましたが。それからラギ爺さん、魔法使いとしては優秀だけど嫌われている怒ってばかりの堅物クソ真面目爺、有事の際には頼りになるのが素敵。事件を受けての心境の変化の、苦みのある余韻を残す感じ、良かったです。

あとは過去生き延びた組を出してくるのも、思い入れの観点からズルいものがありました。クランテイルとかマナたちとか、どんな酷い状況からどんな想いを背負って生き延びたのか知ってるので、こんなんで死なないでくれって思ってしまう……。亀から変身した魔法少女ことテプセケメイ、謎の独自ルールに従って自由に動いているようで、7753とマナに向ける想いの強さが好きです。あと強いし。

 

そんな感じでとにかく飽きることなく先へ先へと読み進めてしまう面白さのあった上下巻。とても満足感のある読書でした。あとは明らかに話の途中で止まっている本編の続きを早く……。

【マンガ感想】THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS U149 7、8 / バンダイナムコエンターテインメント・ 廾之

 

 

久しぶりのU149新刊は龍崎薫編、アイドル大運動会編、そして的場梨沙編の途中までを収録。連載で読んでた時も最高だなと思いましたが、まとめて読んでも最高でした。キャラクターの描き方が丁寧でスピンオフとしても良いですし、それを抜きにしてもマンガが上手い。

 

U149のいいところはたくさんあるのですが、中でもやっぱり表情が抜群なんだと思います。子供たちの中で、感情が動いたその瞬間を切り取ったような表情。単純にかわいいだとか、ただ笑っている怒っている真剣になっているだけじゃない、何かが彼女たちの中で起きたと感じさせてくれる表情の描き方がとても鮮烈で、この作品の魅力になっているのだと思います。一つの話の中で、薫の笑顔のバリエーションで魅せてくれるのは正直凄い。龍崎薫は向日葵だった。

それから、大運動会編はたくさんのアイドルを活き活きと描き出していたのが印象的。アイドル達の負けず嫌いさと、普段は見えない真剣な顔だったり好戦的な顔だったりがとても良かったです。そしてこれだけの数のアイドルが登場する中で、皆に見せ場があるのも良かったところ。マンガって作品の中でこの流れ、このセリフ、この表情というキメのようなシーンがあると思うのですが、この運動会編はあの子にもこの子にもそれがあって、1話の中で次から次へとキメのシーンが出てくるハイカロリー仕様。かといってごちゃごちゃしすぎずに、高いテンションをキープしながらそれぞれに見せ場をくれるのが凄く良かったです。足を引っ張ってと言おうとする結愛へ被せ気味にそんなことないと言う晴とか、背伸びしがちなありすが美波に認められてぐっとこぶしを握るところとか、この方が盛り上がったでしょうと言う桃華と梨沙の返しとか、熱血してる感じが最高。基本的に煌びやかな話ではなく、可愛いを一番に推す話でもなく、熱い話なのがU149だと思っているので、アイドルの運動会というのは最高にハマっていたと思います。

それから連載当時冷静に読めなかった梨沙編。負けん気と向上心の強い秀才タイプが周りの状況に焦っている中で、同じ演技のフィールドにこずえという天才を当ててくるのが、話としてはそれだよ分かってるなあという思いとこの先どうなっちゃうのという思いが入り混じって大変だったなというのが、今読んでも思い出されました。決着は9巻、表紙と、あとソロ曲を、期待してもいいですかね……。

【小説感想】アンデッドガール・マーダーファルス 3 / 青崎有吾

 

4年半ぶりの新刊はそれはもう大変結構なお手前で、首を長くして待ったかいがあるというものでした。流石の面白さ。

 

帯に「冒険・バトル・伝奇全部入り闇鍋本格ミステリ」と謳われているのがまさにその通りな、あれからこれまで美味しい要素は全部投げ込みましたの500ページ。それでいてごちゃごちゃしているのかと言えばそんなことはなく、ヤバい怪物とヤバい人間たちの異能バトルと、生首の探偵による端正な本格ミステリが完璧に両立しているのが凄いところ。少女ガンマンにオネエ言葉の鎖使いの《ロイズ》、吸血鬼カーミラに人造人間ヴィクターの魔術師クロウリーの《夜宴(バンケット)》、そして“鳥籠使い”一行というあまりに濃すぎる3勢力が人狼伝説の残る村で大激突という話と、閉鎖的な人間の村とこれまた閉鎖的な人狼の里で起きている怪異がらみの連続殺人事件の謎解きという、どちらもハイカロリーな話が見事に一つの物語の中で嚙み合っています。あらゆる要素が濃いので、それぞれが食い合ったり物語上の都合が出たりしそうなものですが、話の流れは至って自然で、しかも最高に面白い。だからこそ、闇鍋だけど一つの料理として美味しく仕上がっているのが素晴らしかったです。

ミステリ的には、そんな気がしていたという部分とそれは予想外だったという部分が、あんなに何でもありな大騒ぎをやった後に極めてロジカルに解き明かされていくのが良かったところ。小説だからこその仕掛けと、ばら撒かれていたヒントがパズルのようにハマっていく気持ちよさ、そして最後の一捻り。いやもう言うことないでしょうという感じです。

また、読んでいる最中はいっそ気持ち良いくらいに掌の上で転がされていました。特に、後半にかけていやいくらなんでも可哀想と思っていたところから、当然の報いだやっちまえと思うようになって、最後にそうだったのかとなるところは、読んでいる方の感情もまさしく踊らされたという感じ。それを楽しいと思えるのも、これだけ異能が続出する物語の中でも、提示された情報の中から、しかも人狼絡みだからこその事件として鮮やかに背景が紐解かれたからなのだと思います。

あとは、〈終着個体〉(キンズフューラー)とか〈五冷血〉とか〈酔月〉とか、胡散臭くもワクワクするような、ケレン味の強い概念や技が続出するのが、やっぱり楽しいです。キャラクターも一癖も二癖もあるやつらばかりで、敵味方の間の奇妙な共闘関係とか、不思議な縁が結ばれるところも良き。総じてそうそうそういうの好きだよ、分ってるなあという感じ。そんな中でもキャラとしてはやっぱり彼女の印象がとても強かったところ。静句との関係もあり、最後に次巻への展開も用意されて、これはもう早く次の感を出してくれなきゃ困ると思う次第です。

【ライブ感想】大橋彩香ワンマンライブ2021 ~Our WINGS~

 

「WINGS」 (初回限定盤)

「WINGS」 (初回限定盤)

  • アーティスト:大橋彩香
  • 発売日: 2020/12/16
  • メディア: CD
 

 久しぶりの大橋彩香ソロのフルライブでしたが、楽しかった! という気持ちになる良いライブでした。推しが輝いている姿は健康に良い。

 

会場も幕張メッセのイベントホールと大きくなって、ステージングもすっかり堂に入ったというか、堂々とパフォーマンスをしている姿が印象的でした。ソロとしてはライブ数が多いわけではないですが、フェス出演やコンテンツライブで大きな舞台を数多く踏んでいるのが活きているのかなと。

特に序盤と終盤の明るく元気でかわいい曲のゾーンは、これぞ大橋彩香という型があるというか、完全にパフォーマンスとして出来上がっている感じがあります。すっかり安定したプロのステージという感じで、素敵だったしとても楽しかったです。「ワガママMIRROR HEART」はやっぱりキラーチューン。

逆に後半頭からは本人のやりたいことに挑戦をしていくゾーンという感じ。ドラムソロ→レーザーを使ったダンス→特効もりもりでロック曲4連発は好きを詰め込みまくった感じで、完成されたパフォーマンスという訳ではないのですが、本人らしさが色濃く出ているのがファンとしては非常に良かったです。前回まではEDMで踊りたかったけど、今回はアルバムにあったロックな曲たちをバンドでやりたかったんだろうなあという。正直声質的にはあんまり合わないかなと思っていたところもあるのですが、いやいやこれはこれで行けるのではと思うパフォーマンスで、可能性が広がったなと思います。踊りながらの「Winding Road」の激しさも良かったし、「HOWL」はボカロ系ロックな曲と歌声が音源で聞いた時よりすごくマッチしていました。

そして個人的に一番刺さったのは少し切なさのある曲たち。特に後半に披露された「NOT YET」がとても良かったです。前半の「キミがいないクリスマスなんて」もなのですが、こういう綺麗なメロディでちょっと影のある曲が凄く良く合っているように感じて、「Sentimen-Truth」「バカだなぁ」というエモい曲にそれぞれ繋がるセットリストも含めてとても良かったです。これからも本人の流行に合わせて色々なジャンルの曲にチャレンジしていくのだと思いますが、この路線の曲ももっと増えていくとうれしいなと思います。

 

そんな感じで、今現在の大橋彩香をバランスよく魅せる素敵なライブでした。そして何より、この状況下でライブを開催してくれて、推しが輝く姿を見て元気をもらえたというのが、本当に有難いことだったと思います。いつになるかはわからないですが、次のライブで今度は何に挑戦する姿を見せてくれるのか、楽しみに待っていたいです。

【小説感想】Y田A子に世界は難しい / 大澤めぐみ

 

Y田A子に世界は難しい (光文社文庫)

Y田A子に世界は難しい (光文社文庫)

 

騒がしくて面白くてちょっと泣けて、読み終えて清々しい気持ちになれる青春AI家族小説。滅茶苦茶良かったです。とても好み。

 

突抜博士という突き抜けすぎた人工知能の元権威が作ったものの理解されず宙ぶらりんになっていた自我を持つAIを、ロリコンの満天橋教授がお嫁さんにするために作った少女型のロボットに入れたのだけどそのために研究費を使い込んだことがばれてクビになり、処分されそうになったところを研究員の秋彦さんが流石に可哀想だと家に連れ帰ったことで和井田家の居候になって女子高生になった和井田瑛子(ロボット)が突き進む賑やかな日常を一人称饒舌体で描く物語。

そんな瑛子が友達を作ろうとベンチに座っていた風香(友達がいない)に距離感のおかしなアプローチを見せる冒頭から、いったん落ち着こうと言いたくなる情報過多な感じですが、そこから一切減速することなくその勢いのままとにかくアッパーでテンション高めに駆け抜けます。とはいえロボットなので変な冷静さがあったり、周りの人たちも普通だったりちょっと普通じゃなかったり、でも描かれるのはぶっ飛んでいるけどどこにでもある日常で、読んでいると瑛子を通して触れる騒がしくも面白い世界に楽しい気持ちになってくるのが良い感じ。

  

女子高生になった瑛子は和井田家に居候しながら、友達を作って、バイトを始めて、部活を始めます。その過程で、ロボットである彼女の視点から、友達だったり、家族だったり、アイデンティティだったり、将来のことだったり、色々なことを考えます。この一つ一つのテーマは彼女のスピード感ある日常の中でそこまで深く掘り下げられはしなくて、けれど確かに彼女の自我の中に確かに何かを残して、彼女を形作っていきます。

ボボボーボ・ボーボボを買うためにバイトをするのも、躯体に負荷をかけるだけのバレエを面白いと思うのも、攫われた友達のために行動するのも、すべて彼女の日常で生まれたこと。そして、彼女がロボットであり、人間とは違って一度壊れたら自然に直りはしないことも、年下(?)の子が成長したり友人が変わっていく中で自分はずっと同じ姿なことも、それを彼女がどう考えたのかも。それは、ああこんなに騒がしく楽しい毎日なのになんて切ないと、そう感じさせられるもの。

そしてその切なさの反転するエピローグ。人間のことを知って、人間のことを考えて、人間ではない自分を意識して、同じ時間を生きることができないと悟った彼女にもたらされる単純な答え。

 

瑛子はロボットで、ロボットだから外側からの視点で風香のことや和井田家のことを見ていて、友人や家族というものを知った。知ったからこそ、彼ら彼女らは自分を当たり前に受け入れてくれるけれど、自分は同じ時間を生きられないと悲しんだ。

でも、少女型のロボットであることが、最高速で突き進んだ騒がしい日常が、そうやってできた友人や家族が、バイト先のおっさんみたいなことを言うペッパーくんだって、全ての要素がばっちりとハマって、ここには女子高生 和井田瑛子の物語が浮かび上がります。ロボットだからだとかそんなことは関係なく、彼女が観測して考察した世界の中に彼女自身は確かにいる。彼女は未知が広がる世界を目一杯に生きてきたし、例え叶うかわからなくても、未来を願ったっていいんだと教えてくれる親友もできた。だから、一緒に歩んでいくことができる。

そうして物語は、周りと違う自分はどうやって世界の中で生きていくのか、何者になれるのだろうかという、ものすごく普遍的なテーマに集約されます。人と出会い、世界を広げて、青春を知ったロボットが、気が付けば彼女自身最高に青春をしていた。そこがとても良かったし、すごく好きだなと思う物語でした。

【ゲーム感想】ブレイブリーデフォルトⅡ(ネタばれあり)

 

ブレイブリーデフォルトII -Switch

ブレイブリーデフォルトII -Switch

  • 発売日: 2021/02/26
  • メディア: Video Game
 

 フィールドマップがあって、街やダンジョンがあって、デフォルメキャラの動きと会話がメインのイベントがあって、コマンド入力の戦闘があってという、昔ながらのRPGを今基準にストレスなく仕立て上げたゲーム。というかこれ最新のFF5です、まさしく。

そしてやっぱり落ち着くというか、アクションRPGの操作が苦手な身としてはこれだよこれという感じがあります。操作性などは今風になっていますが、それ以外は良いところも悪いところも昔のRPGをやっている感覚で、定食屋に入ったらクオリティ高めの定食が出てきたいみたいな。

そんな中で良かったのは戦闘システムとバランス。ジョブ+サブジョブのコマンドが選べて、それとは別に特殊な効果を発揮するアビリティがセット可能。戦闘はシリーズおなじみのターンの前借(ブレイブ)と貯蓄(デフォルト)ができて、今回はATB方式なのでターンの回ってくる速度に装備の重さやジョブによる速度も効いてくる。その全ての組み合わせにシナジーがあって、上手くすれば爆発的な効果をもたらしたり、敵ボスをカウンター系能力含めて完封できたりします。更にパーティーメンバーは4人なので、誰をどういう役割とするのか、そしてそのための育成の方針まで、かなり戦略の幅があり、しかもやたら強い能力は点在しているのでいろいろな勝ち筋があるというのが面白かったです。

凄いなと思ったのは、技やアビリティにぶっ壊れかと思うような強力なものが様々なジョブで数多くあるのですが、かといって戦闘バランスが大味な訳ではないところ。むしろその強力な能力をどう組み合わせて生かすかをしっかり考えないと全然ボスに勝てないというバランスで、このあたりが難易度の高さに繋がってはいるのですが、このゲームの面白さの肝だと思いました。試練の回廊で、明らかに適正レベルが足りずに何度も全滅した後、そんなのあり? みたいな戦略を考えて上手くいったときは思わず叫びましたし、RPGの醍醐味だよなあと。

最終的に私は最終的に超火力で殴り合うみたいな境地に至ったので、隠しボス戦などは全滅直前当たり前からのミレイズで九死に一生、上手いタイミングで神速瞬撃が入ればオーバー8万ダメージみたいな派手な戦闘をすることになり、テンションの上がる乱打戦で楽しかったです。防戦一方なところでホワイトウインドで回復し始めたのは絶望しそうになりましたが。ただ、最後のジョブがBPをコントロールする技ばかりだったので、多分敵のボスにフルブレイブさせない戦略が王道な気はします。

 

ストーリーは、ムービーなどを使った長いイベントシーンはほとんど無くて、シンプルな会話のみで進んでいく、やっぱりこれも昔ながらのRPG仕様。キャラクターの行動に対する突っ込みどころや、ダンジョンのために突然用意されるダンジョン、それどころじゃないだろ的なお使いクエストなども昔ながらのRPGですが、このゲームだとまあそれも味かなと思わせるのがちょっとずるい。グラフィックを変にリアルに寄せなかったのも、ゲーム性に対して合っていたと思います。

話的には4人の光の戦士が、クリスタルの封印が解けたことで甦る敵を倒すというド王道。ですが、特に序盤の4ヶ国を回るあたりの話は非常に丁寧に描かれていて良かったです。クリスタルを求めて旅する主人公たちが関わることで解決する問題もあるのですが、苦みの残るような話が多かったのも印象的。最低限のイベントと言葉で滅茶苦茶に盛り上げる訳ではないのですが、描かれない間を想像させるのが上手いなというのと、サブクエストでフォローすることで痒い所に手が届く掘り下げがあるのが良かったです。中でもサヴァロンの話とライムダールの話が好き。特にサヴァロンはバーナードとニハルの関係がとても良かったし、ニハル幸せになれよって思います。ボス的にはフォリィの擁護の余地も無いが深い思惑もないサイコパスっぷりが純粋にヤバい悪として突き抜けていて好きです。

ただ、終盤にかけての展開はちょっと雑だったのではというか、ペース配分間違えた? みたいな感じがありました。ホログラード、ミューザ辺りから少し駆け足かなとは思うものの、アダマスのことはロンズデイルのイベントがあるし、在りし日のミューザでのグローリアが見たかった気持ちはありつつも、スローンと逃げた時の回想が効いていて十分な感じ。ただ、仕掛けと展開の情報量が多すぎるのはあるのですが、その先の妖精がらみはもう少し掘り下げてもよかったんじゃないかなあと。最低限必要なことは描かれて、ストーリーはしっかりしているのですが、でも序盤のあの丁寧さを鑑みると、もうちょっとちゃんと描けたでしょっていう贅沢な想いがあります。

エドゥナや妖精王、ヤミノヒトミの過去と妖精と人間の関係はもっと描いてほしかったなあとか、イメルダ様との信頼関係イベントそれだけ? とか記憶の泉でずっと待ってるの? とか、こう、もうちょっとあったでしょみたいな。情報は足りているし、バッド気味のエンドを繰り返してそこから何度でも立ち上がるとか、先代の戦士たちから受け継がれるものだとか、そういうテーマもわかるし、魔導書の仕掛けもなるほどと思ったし、セスの正体も納得がいくものだっただけに、もっと丁寧にできたでしょという気持ちがあります。

とはいっても全体的には十分楽しませてもらったし、SFCで子供時代を過ごした人間としては、これこれこういうゲームでいいんだよみたいな気持ちになる良作だったと思います。あとは、やっぱりファンとしてはRevoの音楽が最高なんですよね……。