クビシメロマンチスト / 西尾維新

クビシメロマンチスト 人間失格・零崎人識 (講談社ノベルス)

クビシメロマンチスト 人間失格・零崎人識 (講談社ノベルス)

これは強烈。むしろ戦慄を引き起こすような。すごい。たとえ作者の掌の上で踊らされるだけであっても、どうしようもなく踊ってしまうだけの力、抗えない物語。これは、私には、やばい。
前半も後半も、一冊の小説としてまとまっちゃいないのですが、それでも、書かれていることが怖いです。クビキリサイクルに比べたって、型どおりのミステリをする気なんて全然ないんですが、それでもこれは鮮烈。クビキリサイクルより個人的にはこっちのほうが全然上です。好きとは違うのがまたミソ。
きみとぼく、クビキリを読んで、この人の小説には自分の中で線を引いて、物語に取り込まれないようにしようと思っていたのですが、そんな薄皮一枚のラインなんて、軽く引き裂くようにして、心を侵食される感じ。物理的にもエグイ後半も、言葉のエグイ前半も強烈です。いーちゃんの空虚さ、不安定さが、どうしてもシンクロする感触。イヤでイヤでたまらないのに。単に感情移入するために空虚なのではなく、空虚である事の絶対的な重さ。全編に漂う肉体的なリアリティのなさと、精神的な強烈なリアリティが、混迷を続ける自己意識に重たいです。人間として欠陥品という言葉。「自分を肩の辺りから眺めているもう一人の自分」が欠陥品の証ならば、私はずいぶん前から、いつからだか忘れるくらいに、欠陥品でしかありません。殺人鬼・零崎人識といーちゃんの会話に感じるよくわからない魅力。抗ってもしょうがない気すらするくらいに、どうしようもなく、感性が、逃げられない。
後半の殺人の展開は、根本的にエグイ。感情のもつれが、少しの誤差が、決定的に一つの世界を壊す瞬間。そんな訳がないと思っても、そんなふうかもしれないと思うような。少し浮いた感触。殺人現場の状況は、なんだか脳裏に残りそうです。容赦のなさと、リアルに対する信頼の薄さ。連綿と続く不安感。この世界の住人が、いーちゃんが、どこにたどり着くのか。
とりあえず、個人的衝撃作。やっぱり、やばい。