『アリス・ミラー城』殺人事件 / 北山猛邦

『アリス・ミラー城』殺人事件 (講談社ノベルス)

『アリス・ミラー城』殺人事件 (講談社ノベルス)

やられた。滅茶苦茶悔しい。
ファウストvol.4の「こころの最後の距離」と「廃線上のアリア」は読んでましたが、「物理の」北山の長編は初めて。ファウストを読んだときには、荒涼とした世界と幽霊みたいなキャラクターから大仰な物理トリックが浮きまくっててなんだかなぁと思ったんですが、これはなかなか。これも世界の終わりを暗示させる設定に、降り続ける雪とか、孤島の奇妙な城とか、ルイス・キャロルにちなんだアリス・ミラーの伝説なんかが絡んで、冷たくて寒々として一種幻想的な印象。地の文が三人称で淡々と状況を描写するのも、静かなイメージを強くして薄気味悪いです。孤島の城に探偵が集められる話なので、キャラクターは探偵がたくさんと他少し。直接的な心理描写がほとんどなくて視点もころころ変わるのでキャラクター一人一人の描写は薄い気もしますが、まぁそれはそれ。ただ、変な喋り方をさせたり、喋れなくしたりしてキャラを書き分けるのはどうなんでしょう。なんか少し全体の雰囲気から浮いてる感じを受けました。まぁ、探偵なんて変なやつでいいのか。話はミステリっぽいミステリで、ファウスト系のミステリの形で違う事してるようなのに慣れてると逆に新鮮。少なくとも新青春エンタではないし。事件は孤島の城で探偵が一人づつ殺されていくといったもので、ミステリになじみがない人間としては金田一少年とかにありそうだなぁと思って読んでたんですが、これは金田一少年じゃ出来ませんね。話は中盤からはなかなか緊張感があって面白かったです。城の中を手を引いて走ってる辺りICOをぼんやり思い出したり。
満足度:B+


以下ネタばれorヒントがあるかも。

騙された! 物理トリックも、キャラの多さも、キャラの内面に踏み込まないのも、確かにこの仕掛けをするためならピッタリだと読み終わっての感想。とにかく一個の仕掛があって、そのために全ての物語が存在して、そこで事件が起きたりです。城とかキャラとかに確かな理由を求めても、いまいちピンとこないのも道理。トリックとか登場人物のアリバイとか頑張って考えてた自分のバカ。確かに、読んでいて引っかかるところがたくさんあったんですが、まぁいいかと思って読み進めたのが拙かった。チェス盤も、会話文も、地の文もいくらでもヒントがあったし、最初の方の会話文で明らかにおかしいと思ってたのに。これが叙述トリックかぁ。読み返すと確かにその通り。悔しい。