ハサミ男 / 殊能将之

ハサミ男 (講談社文庫)

ハサミ男 (講談社文庫)

皮肉の利いた小説でした。
連続少女殺害犯「ハサミ男」がターゲットにした少女を追いかけてると、その少女の死体の第一発見者となってしまう。しかも、その少女はハサミ男そっくりの手法で殺されていた!ハサミ男は自分の模倣犯の起こした事件の調査を始めるが…。なんというか、こう書くと相当アホらしいブラックジョークじみた話なのですが、登場人物たちはいたってマジメ。ハサミ男の偽者を追うハサミ男も、ハサミ男を追う警官達も必死。必死な人たちのやってることの「正常な」状態からのズレっぷりにニヤニヤしながら犯人を考えつつ読んでると、読んでるほうまでズラされてなんとまぁ。まぁ、フェアなんですけどね。
文章は無機質で硬質な感じで、読みやすいけどシンプルすぎるかなと思いますが、皮肉な風味を引き立たせてもいます。構成はしっかり綿密。前半はそれほどでもありませんでしたが、後半はぐいぐい引き込まれて一気に読んでしまいました。
なかなか面白い小説でしたが、映画化はどうやったらできたんだろう…。
満足度:B


以下軽いネタばれなので反転
結末からしたってとにかくなんとも空虚で皮肉めいた小説なんですが、他にもいろんなところでそういう傾向が。ハサミ男の心理に特にそんなところがでてるような気がします。ジャーナリズムや異常者の心理分析への蔑みに近い言い方とかもそうですが、ハサミ男の行動に「なぜ?」がまったく存在しないところとか、自殺癖とかその辺もろもろで。特に理由の欠如は印象的。少女殺しも模倣犯の調査も自殺もまったく理由がなくただそうしてるだけ。「どうやって?」はすごくよく考えるのに「なぜ?」欠如してると。しかも多重人格者。これが正しいかとかはともかく、猟奇殺人者の内面描写はすごく面白いなぁと思いました。あと、騙しのテクニックは鮮やか。すっかり騙されました。