荒野の恋 第一部 catch the tail / 桜庭一樹

荒野の恋〈第1部〉catch the tail (ファミ通文庫)

荒野の恋〈第1部〉catch the tail (ファミ通文庫)

桜庭一樹初の恋愛小説「恋の三部作」第一部。
短いとはいえ、私が小説を買ったその日に読み終えるなんてことがそもそも珍しいです。帰りの電車で読んでいて、音も時間も周りの様子も分からなくなるほどに夢中になれるのはそうそうないこと。それほどに惹き付けられるものがあります。
話は「恋愛」小説家の娘山野内荒野12歳とクラスメイト神無月悠也の恋の話。荒野の父の再婚相手が、悠也の母でという話だけならベタなのですが、そこに絡んでくるものが色々。荒野の父を取り巻く女たちの関係はかなり泥ついてますし、荒野が見る世界も決して優しいだけの世界ではありません。この辺が人生を闘う少女を書き続けてきた桜庭一樹らしいところ。
愛とか、恋とか、性とか、そういったものを巡る荒野の初恋の話で、実に初々しくて微笑ましいのですが、それだけじゃないのがさすが。このただごとでは無い生々しさ。理想的で奇麗事なユートピアライトノベルのお約束的ボーイミーツガールでは捨象されるはずの、キャラクター達が見せる生々しさ。理想的なところも陰湿としたところも含めた、生きている感触。心理描写のリアルさ。ものすごく繊細で、それでいてグサグサ刺さるような描写が素晴らしいです。ちょっとした表現やセリフもゾクっとします。やっぱり、こんな感覚は女性作家にしか作れないのかな、と思いました。
やっぱり桜庭一樹は好きだと確認した一冊。すごい。素晴らしい。個人的には傑作。大絶賛。続きを早く出してください。
満足度:A