少女には向かない職業 / 桜庭一樹

少女には向かない職業 (ミステリ・フロンティア)

少女には向かない職業 (ミステリ・フロンティア)

面白いとも好きともいいたくない。ですが、すごく良いとはいいたい。そんな作品。
「人を二人殺した」という主人公大西葵の告白から始まる物語はその通りで明るくなるわけもなく。推定少女砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけないのラインの、少女達の闘いを描いた物語は、あまりにも痛切で繊細で、切れば血が出るような危うさと、息の詰まるような苦しさを存分に含んでいて、読み進めるほどに辛くなってきます。それなのにどうしようもなく惹き込まれ、読むことを止められないのがすばらしいです。息の詰まるような環境におかれて助けてほしいのにすがるもののない少女の感じる苦しみとかいらだちとか閉塞感とか、そういうものがこれでもかというくらいに伝わってきて、読んでるこっちが苦しくなります。
初の一般向けレーベルからの作品ということですが、系統は砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけないそっくりなので、内容基準でラノベと非ラノベを分けようとすると難解です。


以下内容に触れます。


この結末は葵の「失敗」であると思います。推定少女のカナも、砂糖菓子のなぎさも、現実と闘いそして一つの区切りを超えて、それでも戦場へという話だったと思うのですが、本作の葵は闘いに失敗して、どこへもいけなくなってしまったように思えます。それは仲良くなった少女の静香が砂糖菓子の弾丸だけを撃つ様な人間じゃなかったからかもしれないし、母親が子供に愛情を注げないような人間だったからかもしれないし、義父がああだったからかもしれないし、男の子を巡った問題で葵がクラスから浮いてしまったからかもしれない。あるいは単に葵が弱かったのかもしれない。それでも何かのせいで、闘った果てに取り返しがつかなくなってしまった。そのどうしようもないやるせなさが後半からラストにかけてすごく感じられました。決定的に何かが壊れてしまったような感じ。そこが砂糖菓子よりも黒さを感じて、それでもこれも一つの闘いの記録であるのだと思いました。
話的に一番よかったのが一章。葵が何かを踏み外す所までが素晴らしいと思いました。この後は徐々に崩れてくだけという感じなので。
あと、一面からみると少女の闘いとその内面を追った小説なのに、別の視点から見ると少年犯罪や家庭の問題を描いた社会派な物語になってるのが面白いなと思いました。

島の夏を、美しい、とふいにあたしは思う。
――強くなりたいな。
強くて優しい大人になりたい。力がほしい。でも、どうしたらいいのかな?

この気持ちが、こういう結末に繋がっていくと思うとなんとも。
満足度:A