痾 / 麻耶雄嵩

痾 (講談社ノベルス)

痾 (講談社ノベルス)

私はミステリ好きではありますが、本格ミステリ読みにはなれないんだなと感じました。綿密に仕組まれたミステリという意味では、鴉なんか比べれば数段落ちるとは思いますが、私はもしかしたら麻耶雄嵩では今のところこれが一番好きかもしれません。まぁ、そもそも佐藤友哉が大好きな人間ですし。

そんな戯言はおいておいて、夏と冬の奏鳴曲の実質的な続編。ラストの大破局で壊れちゃったうゆーさんが、そのまま壊れ続けてる様を延々と描くという、ある種気が違ったような小説です。一応烏有は断片的な記憶喪失により、和音島でのラストの部分や桐璃に関する記憶は失われているので序盤はまともにも思えるのですが、それでもその欠落や記憶がフラッシュバックすることによって再び壊れていきます。
事件的には烏有の放火していったところに必ず死体が現れるといったものですが、事件そのものの謎解きは多分オマケぐらいの認識で良いかと。なにしろ烏有は炎の中に自分の記憶の断片を見出し、無意識に寺社に火をつけて回る放火魔ですし、そこに死体が現れることで逆に自分が被害者ぶったり、世間を過剰に恐れたり、わぴ子という元恋人似の人に救いを求めたりともう何がなんだかわかりません。完全に壊れて狂ってるとしか思えない、破綻して最低な行動と思考が延々と烏有視点で描写されるんだからいったい何の小説なのかと。しかしまたこのイカレた心理と行動が夏と冬の奏鳴曲のラストのテンションで延々と描かれてるわけで。
そしてラストで再び壊れきる烏有がもうなんとも。結局人一人の人生や自我など世の中で蹂躙され、踊らされるだけなのです。
メルカトルの後継者の話は何かとってつけた感もあるのですが、この先何らかの展開をするのでしょうか。
満足度:A