神様のパズル / 機本伸司

神様のパズル (ハルキ文庫)

神様のパズル (ハルキ文庫)

傑作! こういうの大好き!
「宇宙の作り方」がテーマでTOEだのなんだの言ってるようなSFなんですが、150キロど真ん中直球の青春小説です。私のマイベスト青春モノTOP3とかに入ります。
話としては落ちこぼれ大学生の綿貫が、天才少女マッドサイエンティストの穂瑞沙羅華とともに物理学のゼミで「宇宙は作れるか」というディベートに挑むという流れ。解説で触れられていますが、名探偵サラカ・ホミズと助手のワタサンが「宇宙は作れるか」という謎に迫るミステリという語り口です。
前半は物理にまつわる話はゼミ内ディベートの内容も穂瑞の解説もチンプンカンプンでしたが、文系学生には縁遠い世界の話でなかなか興味深かったです。しかし、落ちこぼれの学生の視点から書かれていて、詳しい解説も入ったりするのでかなりやさしい作りのはずなのにサッパリわからない辺りが私の限界か。それでもキャラクターの魅力と会話の応酬が結構面白かったです。
素晴らしいと思ったのは後半。宇宙の作り方の問題はそのまま存在そのものへの疑問へとスライドして、いつか「自分は何のために生きるか」という穂瑞と綿貫に共通する哲学的命題へ。この辺りの疑問点から、そこへの立ち向かい方までとっても青春していて大変によろしかったです。農業を営む老婆や音楽、そして穂瑞の理論を本に作られた「むげん」という巨大実験施設といった要素が綺麗に収束していく様はお見事。ラストで彼らが出した回答は、私にとってはとても納得のいくものでした。保障論とかすごくいいと思います。
キャラクター小説としても素敵。穂瑞はツンツンした孤高の天才で、実に魅力的。ただ、その孤独さ故にああなって、最終的にこうなったわけですが。綿貫のダメ学生ぶりもなかなか共感できます。そして就職活動とか、ゼミ内の人間関係とか、研究施設内のあれこれとか、そういう空気がものすごくリアルで、観念的になりがちな物語を地に足が着いたものにしているのが良かったです。後すごい読みやすい。
そんな感じで絶賛です。すごく良かった。ラスト泣いた。映画化するらしいので楽しみに待ちます。
満足度:A+


いかネタばれあり。

綿貫視点が貫かれていますが、この物語の主人公は穂瑞でしょう。彼女が自らの存在の意味に悩み、それがわからないことに苦しみ、そして追い詰められて全てを決着させようとした果てに、答えかもしれないものを見つけて田んぼに現れたシーンとみんなに囲まれて泣いたシーンがあまりにも印象的でした。天才的な頭脳を持ちながら、何故生きるのかという謎にもがき苦しみ、周囲から孤立した彼女が答えを見出す物語。私はこの小説をそう捕らえています。しかし、わからないわからないと言ってる穂瑞を見てると、きみとぼくの壊れた世界の黒猫が頭をよぎる。
このラストの「回答」は結局ありきたりすぎてつまらないとも思えますが、それでもこれしかないと思います。すべてが質量とエネルギーで解き明かされたところで人間が生きる意味は見つからない。生き方を考えさせられる小説でした。青春小説というからには、やっぱりこうやって青春の出口まで描いて欲しいです。
しかしボーイミーツガールの形を取りながら、途中まではお互い別の想い人がいるし、追い詰められた穂瑞に届いたのは綿貫の声でなくて音楽だし、ラストでもくっつかないしで、ちっともボーイミーツガールしなかったのが印象的。まぁ、くっついたらそれがお前らの答えかよという感じもしますが。