樹海人魚 / 中村九郎

樹海人魚 (ガガガ文庫)

樹海人魚 (ガガガ文庫)

やっぱり凄い。
冒頭2ページから飛ばしまくりの展開で理解を超えはするものの、その後はちゃんと分かりやすく展開するので、今までの中村九郎作品と比べるとかなり読みやすいかと。ただ、その分よく分からないけど高いテンションとか異様な密度とか、そういうものは少しだけ感じ辛くなっているようにも思います。
話としては、樹海博士が生み出した不死の存在である人魚を巡る異能バトル系の話。危険な存在である人魚とその人魚を調律して歌い手として戦わせる指揮者、そして楽団という組織。この作者らしい発想力は健在で、指揮者と歌い手が赤い糸で繋がり、タクトを振るって調律するなんてイメージは秀逸だと思います。人魚の設定や、グズのザネ、反転重力の霙、絶対零度のバービーといったキャラクター、そしてストーリーそのものもなかなか楽しめました。
ただ、この人の真骨頂は軽く理解を超えていくセンス。私の持っている価値基準とかロジックの展開だとか、そういうものがまるで偏狭な見方であるかのように軽く飛び越えて、理解不能気味な発想と展開を、それなのにイメージとしては非常に明瞭に、矢継ぎ早に繰り出していくのが凄いです。スケールが大きいのか話が深いのか密度が濃いのかも良く分からないながら、何か違う、でも凄い、という感覚を抱かせるセンスは稀有なものだと思います。
正直なところ、この人の書く物語は個人的にはあまり合わないという感じが強いのですが、それでも読もうと思うだけの力がある作品です。
満足度:A-