PSYCHE / 唐辺葉介

PSYCHE (プシュケ) (スクウェア・エニックス・ノベルズ)

PSYCHE (プシュケ) (スクウェア・エニックス・ノベルズ)

冬目景のイラストに惹かれて手に取ったら、読んでいるとじわじわと蝕まれていく遅効性の毒のような小説でした。
僕の一人称で紡がれる物語は、リアルな世界から薄皮一枚を隔てたようなぼんやりとした世界の中で、ただ淡々と溶けるように崩れていくイメージ。印象的に使われる蝶、そして僕が描き続ける絵。実体を掴めないキャラクター。現実と幻想の境目は曖昧になって、それでも一定のペースを崩さない思考の中で内へ内へと閉じていくような、緩やかな閉塞感が空寒いです。
そしてこの小説が何より怖いのは、淡々とした語り口が、読んでいる最中にこの世界に違和感を抱かさせないこと。ゆっくりと狂っていくことに気がつかないというか、いつの間にか読み手が引きずり込まれてるような感じ。
そして読み終わってしばらくするとじわじわと来る気持ち悪さと、全てのものに対するどうでもいいという感覚は、まさにこの作品に蝕まれているといった印象。スルスルと引き込まれてしまう鬱小説というか。
そんな感じで気持ち悪いような、むしろ気持ち良いような、不思議な感覚を残した作品でした。エンターテイメント的な意味ではありませんが、面白かったです。