俺の妹がこんなに可愛いわけがない / 伏見つかさ

世間体が気になる? 偏見がおっかない? よーし、それじゃあオマエもこっちに来いよ。さあ俺らと一緒に、大騒ぎして遊ぼうぜ
――そんな風に手を差しのべられているような気がするんだな。誰からかって? いや、それはよくわかんねーけれども。

ともすれば一発ネタに終わりそうなタイトルと設定。でも、これは本当に面白かったです。
兄の京介は平凡を絵にかいたような高校生。妹の桐乃は美人でちょっとギャル入った今時の中学生。ファッション誌で読者モデルまでやっている桐乃の重大な「秘密」を知ってしまった京介は、普段は会話もしないはずの妹から人生相談を受けることにという感じで始まるお話は、とにもかくにも桐乃の「秘密」にびっくり。
帯コメントを見た時点で分かると言えば分かるのですが、この妹実は重度のオタクで、しかも「妹もの」のエロゲーが大好きというかなりのアレ具合。その桐乃が持ちかけた相談はもちろんオタク趣味に関することで、極めて一般人な京介は振り回されるばかり、みたいな感じの話。
それだけだと一発ネタなのですが、何が素晴らしいってリアルな部分とフィクションな部分のバランス感覚、そして素直になれない妹のチラっと見せる可愛らしさと文句を言いつつ妹のために奮闘する兄のカッコ良さ。
オタク話も、アニメにしろゲームにしろネット界隈の話にしろオフ会の話にしろ、なんというか分かる人には分かりすぎる感じのリアルさで、ちょこちょこと実名を出してくるあたりも効果的。そして兄妹間の冷え切ったというほど険悪でもなく、ただ単にお互いウザがって喧嘩してる感じもやたらとリアル。その上でやっぱり妹を放っておけない兄貴の姿は輝いているし、ふと弱気な面を見せて兄を頼る妹の姿は、これはこれで今時の理想の兄妹像なのかなと思いました。
そして妹のインパクトに押され気味ですが、さりげなく幼馴染が良い味を出していました。もう京介と麻奈美は早く結婚するべきだと思います。
オタクネタに関してはシンパシーを感じる部分はもはや笑ってしまうほど多い反面、京介の視点から客観的に見るが故に色々思うところもあったり。でもとりあえずは、やっぱり楽しんでこその趣味なんだろうなと。なんでこんなにと思う位に楽しそうにしている桐乃の姿は、実に覚えがあるからかもしれませんが印象的でした。そういう意味では、やっぱりこの感覚が分かる人の方が楽しめる作品なのかも。
あとは、イラストの素晴らしさが特筆もの。表紙の不機嫌な顔をした桐乃を始めとして、表情を本当に魅力的に描ける人だと思いました。
そんな訳で、あるあると思わせるに十分な今時の空気の掴み具合、キャッチーすぎるタイトルに表紙、そしてインパクト抜群の設定に、それだけで終わらない話の展開の面白さ、さらにキャラクターは活き活きと動いてその関係性は魅力的と、個人的に非の打ちどころのない作品でした。素晴らしかった!