幽式 / 一肇

幽式 (ガガガ文庫)

オカルトマニアの少年渡崎トキオと、自ら幽かなる領域に近づいていくデンパガール神野江ユイ。2人の出会いから始まる物語は、ホラー風味で青春小説で、とても良いボーイミーツガールな作品でした。こういうタイプのお話は大好きです。
日常のすぐ隣にある霊の世界。こちらから境界を越えれば、向こう側からも覗かれる。そんな幽かなる者たちの世界に興味を持つトキオが出会った、リストバンドで腕を隠し、奇行の目立つクラスでも浮いた存在の美少女神野江。けれど彼女は決定的に違っていて、幽かなるものを面白がるわけではなく、純粋な興味で危ないと感じる領域を軽々と越えていって。
すぐ近くにある幽かなモノの世界の描き方、女子高生にして大手オカルトサイト「異界ヶ淵」管理人であるクリシュナさんん魅力、そして危うくも素敵なストーリーと色々魅力はありますが、やっぱりこの作品の肝は神野江とトキオの関係かなぁと。異界に踏み越えて行ってしまうヒロインと振り回される主人公というお決まりパターンのようで、捻ってあるのがまた良い感じ。徐々に明らかにされていく真実は、注意していれば読めるのですが、それでも背筋がうっすらと冷えるようなものがあります。
そしてラストシーンは本当にもうこういうの大好きだからやめて！ みたいな感じで非常に素敵でした。こういう息のつまる日常と魅力的で恐ろしい非日常がぐちゃぐちゃして、色々追いつめられた走り抜けた先に何かが広がっていくようで、しかもボーイミーツガールだったりする作品にはとても弱い私です。
あと、前シリーズを読んだ時にも感じたのですが、この作者はかなり独特なセンスを持っている気がします。時々私の持っている常識から外れていって、それでもきちんと世界として成立している不思議な感覚は、この物語の雰囲気にあっていて面白かったり、理解を超えて不可解だったり。
そして一人称文章の小気味よい感じや、怪しい雰囲気のあるイラストも好き。そんな感じで非常に満足度の高い一冊。
ただこのイラストだと、あんまり売れないんじゃないかと余計な心配が……。