- 作者: 長谷 敏司,深遊
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2010/08/31
- メディア: 文庫
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再演体系の未来の魔法使いたちによって「正しく」導かれる世界。魔法使いを見えざる手で操ることで、大きな流れを作り出して過去の世界を導いていくその方法は、個人の意志を、生まれる冤罪を、必要とされた犠牲を厭わないもの。より純粋に、より神意に忠実に、より正しい形に導かれる世界は、人間が己の罪さえも神に委ねた世界。
再演大系の魔法世界で進んでいくその正しさに、一人の人間として抗うものたち。己の想いの全てを掛けて、生きるために続いてきた人々の闘いは、神の降臨という出来事を機に大きく一つの構図を見せていきます。聖騎士が望み続けた神の降臨、祈り続けた奇跡、そのために流してきた多くの血。それを背負って神意を貫くアンゼロッタに対して、愚かであっても、悪であっても、それでも、大切な者を守りたいという人のエゴで立ち向かっていく仁。
メイゼルに幸せな未来を与えるため、他の犠牲は何も厭わない仁。再演魔導師としての絶対の力を自らが生きて幸せになるために行使すると決めたきずな。それは救えないくらいにエゴイスティックで、彼らは数えきれない人の命すら犠牲に歩んできています。その想いの強さは、例えば円環世界のために闘った《九位》や、魔法使いの国という幻想を描いた王子護や、核テロによりすべてをやりなおうそうとした国城田と変わらないのではないかと思うのです。そしてこれまでも、彼らはその想いが相容れないから、譲れないものを賭けて戦い続けてきた訳で。
だから、再演の神という絶対の正しさをもった外部の力にすべてを委ねようとするアンゼロッタの姿勢はある意味正しくて、仁たちの姿は疑いようもなく悪かもしれなくて。それでも、この物語はそんな愚かな人の意志を、人の生きる力を信じて謳い続けます。それは、ここまで大きな話が動き始めたシリーズのクライマックスに来ても、メイゼルが小学校に戻って寒川と演じたおかしな舞台、普通の人間である寒川視点からのこの世界の描写、食事の光景を失わない仁とメイゼルと鬼火衆の暮らしという、人々が当たり前に営む日常の生活をこの作品が決して手放さないことに現れているのかなと思います。そして神意は生命にあるとして袂を分かったエレオノールとアンゼロッタという二人の聖騎士の姿も、象徴的かなと。過ちを犯して、悪を為して、救えないくらいに愚かであっても、生きていく人の姿の中に光を見続ける。信頼というよりも祈りのような何かが、この物語を支えているのではないかなと、そんなふうに感じるのです。
そして物語の方もまさにクライマックス。仁ときずな、仁とメイゼルの関係。この地獄、そして再演大系の謎。様々な事柄を明らかにしながら走り抜けていく物語は、読んでいるとその圧力に飛ばされそうになるような感じ。メイゼルに未来を見せるために闘う仁とメイゼルの関係は、お互いがお互い無しじゃ個人として成立しないくらいにもはや後戻りのできないところまで来ていて、その繋がりの形に圧倒されるようですし、ラストにかけてのバトルシーンは、エンターテイメント的なカタルシスもありつつ、強すぎるくらいに強いそれぞれの想いが密度の濃く鮮やかな戦闘描写と共に交錯していて凄まじいものがありました。
本当に大好きなシリーズなので終わりを迎えることに一抹の寂しさもありますが、試され続ける世界の中で自らの意志を貫く者たちが最後にどこにたどり着くのか、最終巻となる次巻を楽しみに待っていたいと思います。