- 作者: 夕鷺かのう,オサム
- 出版社/メーカー: エンターブレイン
- 発売日: 2011/08/11
- メディア: 文庫
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そして5年後、男ながら歌姫の力を持っていた少年は、性別を偽って花狩の歌姫となるために楽院に通い、そこでノワールという細身の少年と出会い、という物語。
素晴らしかったです。女装少年に男装少女、人を襲う薔薇に、闘うための歌と舞。性別が偽られていることでやたらと倒錯する恋模様に、守れなかった過去から守りたい未来へと繋がる想い。設定はかなり作者の趣味色が強い、割とねじれたものになっているのですが、そこで語られる物語はとにかくまっすぐに綺麗です。花や歌というモチーフの美しさというのはもちろんあるのですが、物語の展開も、淀みののない文章も、さらさらと流れていくような印象があります。触れたら壊れそうな美しい物語、というのとは違うのですが、とにかく品が良くて綺麗という言葉がしっくりくるような、読んでいて気持ちの良い物語でした。
そして、そこで描かれるものがまた。失った初恋の人のために花狩を目指した少年というシリアスな部分と性別を偽って通う楽院とそこで出会った人たちの繰り広げるラブコメ的なノリのある部分がしっかり両立していて、しかも設定的なところで絶妙に噛み合っている感じ。これだけひねった話なのに、ここはこう来て欲しいと思うところや、これは伏線だろうと思ったところは外さないのも、読んでいてこれという感じがして良かったです。
ラブ的な部分は表面だけで追えば唐突感もあるのですが、キャラクターの素性を知った上で読めば納得できる、しかもこの上なくニヤニヤできるものになっています。そして、性別を偽って年齢を下げる薬を呑んだクロード(ロザリア)と男の姿のクロード、そこにこちらも秘密を隠したノワールにクロードと兄妹のような関係のミゲラルドが加わって、これだけのキャラクターで何粒美味しいんだという関係を繰り広げていました。気づいていたり気づいていなかったり、気づかれてないと思ってたりで何重にも倒錯した感じが素敵です。
そして終盤。助けられなかった少年時代。そしてクロードが花狩を目指した訳。その時に関わっていた、それぞれのキャラクターたちの想い。それを、もう一度繰り返すかのように訪れた、花達の襲撃。過去と現在が重なるように、それぞれに大変な苦労をして大きな秘密を負ってまでここににいる、ここまで来た人たちが、あの時を繰り返して、あの時の想いを浮かび上がらせて、そして。この今と過去のリンクというか対比。しかも当人たちには全ては分かっていなくて、大切なものは取り返しが付かなく失われていて、けれどここからまた、彼ら彼女らの未来が始まっていくようなところが、本当に良かったです。
そんな感じで、素晴らしいと思う一冊でした。好み的な意味でもど真ん中という感じで、これは大好きです。まだ物語はこれからという感じなので、続きもとても楽しみにしています。