愛についての感じ / 海猫沢めろん
- 作者: 海猫沢めろん
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2011/02/25
- メディア: 単行本
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名前のないレザーフェイス、場末のホストクラブの売れないキャスト、腐った男と幼い兄妹、山奥の家のガンダーラ、ドヤ街の色街で働く少女と流れてきたヤクザ。社会から弾かれた人々が織り成す、掴みどころのない5編の物語。それは本当にどうしようもなくて、でもどこか澄んだものと、そこに残る何かを感じるような作品でした。
読んでいると、何重の意味でしょうもないというか、理不尽で思わず突っ込みたくなるようなくだらなさという意味でのしょうもなさに、行き先も帰り道もないもう本当にどうしようも無いという意味でのしょうもなさもあるような感じ。
「ピッグノーズDT」の終盤の展開や「オフェーリアの裏庭」のキャラクターが見せる、投げやり感と脱力感すら漂う滅茶苦茶さ。「シュガーレイン」や「初恋」で社会から疎外された者たちが見せる、純粋さと行き止まり感。もう何も信じていないような、終わってしまっているようなそれらが、言葉少なであっても饒舌であっても、どこか淡々と綴られていくような感触。そこに感じるある種の美しさ。
それは、そこまでの作品より現実感のある「新世界」でも同じで、大阪の色街で働くたま子と、刑期を終え東京から流れてきたヤクザの金城の、触れているようでどこか触れていない距離感と、すぐ側に人の暮らしを確かに感じるのにどうしてかそこに届いていないような感じが静かに語られています。
でも、これらの作品には、なんというか愛なんだなと思わされるような何かがあるように感じました。この外側に繋がっていかない静けさの中で、何もかもどうしようもなくて、でもここにはそれが揺らいでいる。それを愛と読んでいいのかは別としても、それに近しい何かのようで、それが救いになっているのかは分からないけれど、でも確かにここにあるのだというような感覚。
そういう意味でこれはまさにタイトル通りの一冊で、そんなところにすごく惹かれる作品集でした。それはたぶんここにある感覚が、私にとっては大切だと感じられるものだからなのだと思います。