ささみさん@がんばらない 9 / 日日日

ささみさん@がんばらない〈9〉 (ガガガ文庫)

ささみさん@がんばらない〈9〉 (ガガガ文庫)

「ねぇヴィシュヌ――あんたの願いは、何なのかしら?」

ああもう、やっぱ好きだわこのシリーズ! と思ったささみさん9巻。
今回はささみさんは一回お休みでがんばらなくて、がんばるのは情雨と玉藻前の二人。そしてお話の中心にいるのは、ヴィシュヌ=シヴァとガルーダの二人のインド神話の神々でした。
このシリーズはがんらなくてはならない大きすぎるものを背負って、がんばってがんばって投げ出しそうになって、その先の救いを、誰かがいてくれることを描いているシリーズだと思っていて、それはこの巻のヴィシュヌにとっても全く同じことで。それが神様あるからこそ、世界の運命すら左右するような話がキャラクター一人の感情に繋がっている感じなのですが、この場合セカイ系的と言うよりは人間らしい神様が織りなす神話的なところなのだろうなあと思ったり。あるいは、そこがすごく親和性が高いからこういうバランスの話になるのか。
そんなわけで、人間の願いを叶えるために在り続けたヴィシュヌというインド神話の最高神が《破壊神》シヴァに転じて、何を望み、何をしようとしていたかの物語。超越者として余裕を見せつづけ、ささみさんや情雨の願いを叶えてきたヴィシュヌが抱えていたもの、小さな水の神様が願いを叶え信仰を集め、そして最高神にまで至った中で何を想っていたのか。そうしたものが飽和した先にあったのは、頑張りすぎてしまった一人の女の子の話で、そんな彼女に一生懸命に対抗しようとしたのは彼女に救われた情雨と玉藻前、そして、これ以上の改変がきかないほど擦り切れながらもある約束を守り続けたガルーダであって。
そしてそんなヴィシュヌに立ち向かった情雨が、アラハバキを失って尚ここまでがんばれるのは玉藻前の存在、そしてささみさんの存在があって。そうやって、誰もが重たい何かを背負って、幸せも持って、関係の中で支えあっている。そのどんなに辛くても独りではないというところに、がんばるとがんばらないは両立するのかな、と思ったり。
相変わらずのトリッキーな語り口に歴史改変とインド神話のアレンジによるストーリーは掴みどころがなく一筋縄では行かなくて、それでもやっぱりこれは芯のところでは後ろ向きで前向きな、すごくまっすぐな物語なんだろうなと思いました。
あと、かがみと玉藻前の共同戦線はなんだかすごく良かったのですが、『おねえさま』はこれをやりたかっただけじゃないかと、P245で笑いました。相変わらず小ネタも多い作品、ということで。