【マンガ感想】淡島百景 3 / 志村貴子

 

淡島百景3

淡島百景3

 

 淡島歌劇学校に集う、あるいはかつて集った少女たちの感情を、関係を、そっと、鮮やかに、けれど深く切り取っていくような作品の3冊目。

両親の新興宗教問題に、病気による降板、芸能人の親のW不倫と結構際どい、それこそ下世話になりかねない題材を扱いながら、それを少女たちの想いからさらっと切り取っていくところは本当に志村貴子の真骨頂という感じ。特にこの作品は淡島という特別な場があるからこそ、彼女たちの心情や関係性が引き立っていて、大変素晴らしいです。志村貴子作品で、個人的には一番好きなシリーズ。

今回は何より「山県沙織と武内実花子」が最高でした。かつて淡島で主演のダブルキャストを努めた2人。けれど、体の弱かった実花子はその後体調を崩し、その代役となったのは沙織。そしていつしか女優となった沙織がついに掴んだ役を急病で失ったとき、その代役を射止めたのは芸能界に復帰した実花子。いがみ合う仲でも、親友というわけでもなかった2人。同じ場所で学び、同じ舞台に立って、誰も欠けないようにと思いながら、突然に訪れた別れ。噛み合わなかったたくさんの想いがあって、流れた長い時間があって。

2人だから分からなかったものがあって、2人だから分かるものがある。実花子の母の言葉、ようやく掛け直せたボタン、そして病室で、同じ時間と空白の時間を経た2人の舞台に立つ役者の会話が素晴らしかったです。

なかなか続きの出ない作品ではありますが、時間を賭けた結果としてこんな素敵なものが読めるのであれば、次のお話も首を長くして待っていたいと思います。