羽月莉音の帝国 3 / 至道流星

羽月莉音の帝国 3 (ガガガ文庫)

羽月莉音の帝国 3 (ガガガ文庫)

この作品は単にビジネスをテーマにしたライトノベルではなく、革命の物語なのだと実感した第3巻。
革命部という会社の名前も、莉音がぶちあげた建国という目標も、そのための手段としての会社経営も、これまでの話の中で全て情報としては出ていたはずなのに、何か壮大なホラ話か何かのように受け取っていました。でも、それは建前でも何でもなく本気でこの馬鹿げた世界を変えてやろうという目標に向かって彼ら彼女らが走りだしたことを、否応なく感じさせてくれるような一冊でした。
アクアス側へのホワイトナイトの登場により窮地に追い込まれる革命部。アクアスの販路を手に入れて、おりおんクローズに投入した資金を回収できなければ破滅しか無くなった背水の陣で、記者会見での失言に落ち込む巳継。そんな巳継を連れて、ジリヤのツテから世界的な財閥一家であるスタインバーグ家を訪れた莉音が、欧米での事業権を譲り渡すという条件と引換にスタインバーグの投資銀行によるアクアス買収という手を引き出し、さあ反撃というところで莉音が倒れるという事件が起こります。
そこで問われるのは、巳継や他のメンバーが革命部としての活動をどう思っているのかということ。莉音というある種超人的な人間に振り回されて、半ば引きずられるようにしてここまでやってきた彼ら彼女ら。その彼らが、莉音のいない時に何ができるのか、そして何のために何をするのか。絶対的に革命部を引っ張ってきた莉音の不在の中で、アジテーションの才能を開花させ、アクアス立花社長と互角以上の論戦を繰り広げる巳継の姿、そしてそんな彼を全力で支える仲間たちの姿は熱いものがありました。
でもそれ以上に印象的だったのは、莉音が復帰しアクアス買収戦が終わり、革命部が次の一歩を踏み出す際のやりとり。散々に振り回されて、危険な橋も渡らされてきた彼ら。彼らにそんなことをさせてでも、この腐った世界を変えてやりたいと思い、それを実行に移した莉音。それでも、本当に革命に向かって動き出す中で、これ以上は危険だと、ここからは距離をおくべきだと判断をした彼女に対して、彼らが返した言葉は主体的なものでした。強さしか見えなかった莉音が見せた弱さ、振り回されるばかりだった革命部のメンバーが見せた決意。そこにそれぞれのキャラクターの考えが見えて、この物語は絵空事のような世界の革命を目指して、ここから動き出したのだと感じさせてくれました。
莉音の描いた理想も、彼らのやろうとしていることも、今の常識で考えればありえない妄想で、とんでもないテロ行為だとは思います。そして、この物語で描かれている世界の見え方だって、偏ったものではあるのだと思います。それでも、この世界はより良く変えられる、この手で変えて新しい世界を作ってやろうという強い想いが一本力強く芯を通しているから、この物語はブレないし、ここからきっともっと面白くなっていくだろうと、そんなふうに感じた一冊でした。次の巻も楽しみです。