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Elysion 二つの楽園を廻る物語(下) / Sound Horizon・十文字青

『Yield』『Sacrifice』『StarDust』の並びにこれは覚悟が必要だぞと思って中々手を付けられなかった下巻をようやく読みきったのですが、まあ予想通りに根こそぎ持っていかれるような一冊でした。
上巻ではまだElysionをノベライズするということに苦労している部分が見え隠れしていたように思うのですが、下巻に入ったらそんな素振りはもう一切なく。これはもう、完全に十文字青の作品として描かれていたと思います。Revo自らによって謳われた解釈の自由を活かしきるような、十文字青によるElysionの解釈。それぞれに驚かされる部分はあったのですが、特に『Yield』はなるほどそう読み解くのかと衝撃的で。
外界から隔絶された閉じた村という社会の中で、少女は何故疎外されるに至ったのか。母、父、娘、その3人の家族はどんな形をしたものだったのか。狭い狭い世界の中で愛憎と血をめぐり、少しずつ明かされる度に狂気を増していく彼女の物語。原曲にある数式「3-1+1-2」の解釈。もはや近ちょっと持っていかれそうになりながら読みすすめる『Sacrifice』『StarDust』もなるほどそういう解釈があるのかと。私の持っていたイメージ的には『Sacrifice』はまさに『Sacrifice』で、日本であれば狐憑きと呼ばれたような可愛い妹とそんな妹のために身を粉にして働き生きた姉の物語が、最終的に「等しく灰に還るがいい」に落ちる結末にゾクッとするものがあり。
そして近未来的な(『Ark』の教団とも関わりがありそうな)都市で、詐欺師のような芸術家崩れの男と彼を支えることに自分をかけてしまった女の愛憎劇として描かれた『StarDust』は、こんな世界観の話になりえるのかと驚きました。自分を冴えないと感じていた女がダメな男に貢ぐことで逆に依存していくその怖さ。そして彼のために真っ白に己を染めた彼女が、何を見て赤になったのか。そしてそれさえもまた一つの症例番号(ケースナンバー)であったのか。
あと、世界観的には『Nein』の「憎しみを花束に代えて」との親和性が強くて、疾りだした彼女が彼女自身を支えていたものでもあるその想いを否定されたら、真っ赤な彼女が無意味ではないと自分自身の生き方を歌うあの物語もあり得るのかという解釈繋ぎの遊びが面白いなと思ったり。
そしてこの作品で最後に持ってこられるのは『笛吹き男とパレード』。幻想と狂気、愛憎と血に彩られたこの物語たちが、ラフレンツェから始まるエルの物語を軸として一つに統べられていく。これは一つの解釈ではあるとして、ただとてもElysionの最後にふさわしい風景が広がっていくように思える、良い締め方だと思いました。
上下巻通じて、Elysionはやっぱり凄かったなと、十文字青は凄いなと感じることができる2冊。堪能しました。