【小説感想】なめらかな世界と、その敵 / 伴名練

 

なめらかな世界と、その敵

なめらかな世界と、その敵

 

 短編集なのですが、最初の1編を読んでこれはちょっと凄いな? となり、途中まで読んでうわこれ凄いぞとなり、最後の1編まで読み終えていや本当に凄いわ……と。これは、なんというか、モノが違うぞって感じが、あります。

短編ごとに様々な時代とSF的な設定が描かれて、その上で、どの作品も人の感情と関係に結実していくような小説たちだと思います。そして、どれもものすごく精度が高いというか、読んでいて手触りの良さ、更に言えば美しさを感じるのが素敵だなと。しかも話としても非常に面白いので、それはもう無敵なのでは、みたいな。

短編ごとに、平行世界を感じ取って乗り換えていく「乗覚」がある世界だとか、冷戦時代にシンギュラリティを超えたソビエトのAIだとか、現代に起きたある特殊な災害の話だとか、本当に様々な設定を、少年少女の語りだったり、手紙形式だったり、あるいは歴史として語ったりする幅の広さ。その設定自体をテーマとするのではなく、そこからある人と別の人とその感情と関係の物語へと展開されていくのは、ちょっとズルいようにも思うのですが、その手捌きがあまりにが見事なので、ただただ凄いなとしか言えません。その過不足の無さ、文章も流れも、短編だからこその精密さというか、精巧に作られた硝子細工をみているような感覚がありました。

どれも素敵だったのですが、一番好みなのは伊藤計劃「ハーモニー」へのトリビュートとして書かれた「美亜羽へ贈る拳銃」。インプラントで脳をコントロールする事ができる技術を背景に、誰かを愛するように作られた人格との関係だとか、人の意識のあり方のようなテーマを描くと見せかけての、終盤の畳み掛け。本当の自分とは何か、みたいなことは全部うっちゃって、あくまでも一人の天才少女と、彼女が夢に破れた末に自分の脳を変えた結果としての少女と、彼女と対峙する青年の、ここにある感情と関係の話として描きるのですが、これ大変に素晴らしくて。この設定だからこそ生み出される、感情と関係の極地みたいなのがあった上で、結果として美亜羽というキャラクターが魅力的に立ち上がってくるのがもう。結末を直接語らずに、ああいう形で示唆するところまで含めて、最高でした。

そして、「ひかりより速く、ゆるやかに」。現代を舞台に、乗客を乗せたまま超低速化してしまった新幹線と、修学旅行を休んだためそこに乗り合わせなかった2人の少年少女の物語。特殊な形の災害を描く小説なのですが、LINEを中心としたコミュニケーションだとか、メディアのあり方だとか、ネット上でのコンテンツ化だとか、あまりに時代の空気の捉えていて、今読むからこそ考えさせられるものがあります。そしてこの想像上の災害を起点として描かれる社会の変化にも納得させられる力があって、そこも凄いと思いました。

それでもやっぱり最後には、残された少年と、少女と、低速化の中にいる少女の関係と感情の物語になって面白いし泣けもするのがこの作品らしさかと。そしてこれも結末の描き方が、そこに乗せてくるの本当にもう! ってなりました。エンタメとしての完成度も抜群に高くて、早くこれアニメ映画化して欲しいと思います。今しかないでしょ、間に合わなくなるよ! って。

しかしこう、実の姉妹に義理の姉妹、1人の身体に2つの人格のようなバリエーションのような関係が様々な形で描かれていて、作者は姉妹百合になにかこう、並々ならぬ想いがあったりするのかなと、そんなことを思ったり。