化石少女 / 麻耶雄嵩

 

化石少女 (徳間文庫)

化石少女 (徳間文庫)

 

 部員が足りずに廃部の危機が迫る部活動、対立組織として出てくる生徒会、行動力があって傍若無人な美少女先輩と振り回されながら面倒を見るヤレヤレ系後輩。そして学園を舞台に起きる事件に先輩が首を突っ込んで……というまあベッタベタもいいところな筋立てから繰り出される物語ですが、その探偵とワトソンは麻耶雄嵩が書いたものだったのです、という。だって麻耶雄嵩の探偵だよ? 

 

という感じで後はネタバレありで。

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HiGH&LOW THE MOVIE 3 FINAL MISSION

THE MOVIE2を見て脳がすっかりやられてしまった私はシーズン1からTHE RED RAINまできっちり履修の上、THE MOVIE3を観に行ってきました。結論から言うと素晴らしかったです。あまりに詰め込みすぎだし、ザム2に比べると派手さでは劣りますし、見ている間は色々??? な所もあるのは相変わらずですが、こうやって人心地つくとハイローのことしか考えられなくなるし、語りたくなるし、考えているうちに要素要素の繋がりが脳内で補完されていって、最高の物語が現出していくの、狙ってやってるのであれば天才かと。あんまり狙っているような気はしませんが。

そして何より、数々の要素や伏線を見事に回収してきっちりテーマを描いて見せたのホントびっくりしました。とかく俺の考えた最高にかっこいいシーンやグッと来る設定を優先している感じがあるハイローなので、色々整合性ぶっ飛んでいたり、突っ込みどころは枚挙に暇がないのですが、そんな数々の設定が後付にしては美しすぎる回収をされるのです。同時に結局なんだったんだよという放り出し(RUDEの掘ってた謎鉱石は謎のままだった……)と、回収しながらお前なんなんだよポイントを生み出していくのも凄いのですが。どういうことだよ屋上打ちっぱなし。なんなんだよ爆破セレモニー。なんで二段階なんだよ爆破セレモニー。

今回は九龍グループという大人たちとの対峙によって話はどちらかと言うと重く、アクションも若干少なめ。なので、ザム2の喧嘩祭じゃうおおおおおおみたいなテンションの上がり方はしないのですが、やっぱりハイローらしいトンチキさが終盤に行くほどに隠しきれずにあふれてくるのが最高だと思います。達磨一家の花火ね、本当に最高かよと。CGはあれだけどね。達磨一家最高かと。大馬鹿を大真面目にパワーで押し切るの大好きです。

 

あとは少ないとはいえやっぱりアクションは見どころでした。これまでの作品も含めて、ハイローは色々凄いところがあるのですが、やっぱりアクション。もうとにかくすごい以外の語彙力を失うやつ。生身のアクションも素晴らしいしキャラクターやチームによるバリエーションも豊富だし、チーム入り乱れた闘いの人数の多さも凄いです。あとザム2の時などはカーアクションが半端なさすぎて、邦画はハリウッドなんかに比べたらまあこのくらいという先入観を遥か彼方にぶっ飛ばしていった感じ。お金と才能とやっちまえという勢いが熱いです。

あと今回見ていても感じたのは全ての画面でこだわられた画作り。普通の商店街である山王商店街と東南アジアチックなスラム街である無名街が地続きなのどういう世界だって感じなのですが、同じ作品の中でどちらかが浮いたりしないのは凄いと思います。それどころかあのSWORDの5チームがてんでバラバラのファッションと世界観を持ちながら一つの画面に収まっても、そういうものだという説得力があるのが本当に凄い。アニメとかならまだ分かるのですが、実写でそれを実現するというのは、細かいこだわりとかの積み重ねがなせる技なのでしょうか。

 

相変わらず全員主役を掲げるハイローは死ぬほどキャラクターが多くて、それぞれの物語や関係が多岐に及んで、ザム3だけでもお腹いっぱいを通り越すくらいに2時間に要素が詰め込まれています。でも、今回きちんと方向性を持って話がまとまっていったように、それらがバラバラにならないのは、基本的にハイローのテーマがぶれていなくて、それの変奏が色々な設定、キャラクターによって描かれているだけだからだと思います。

ハイローの話というかSWORDとMUGENの話の軸にはずっと「大人と子供の対比」「正しさと何かを守ること」「生きてる限りやり直せるということ」「変わっていくものと変わらないもの」みたいなテーマがあって、どのチームであろうと度の時代の話であろうと、そこは同じことを形を変えて繰り返しているようなイメージ。

例えばSWORD地区の抗争は子供の世界の象徴で、あの喧嘩祭りは死者が出ないしベタベタな少年ジャンプ的世界観で攻めてくるし(それが良いのですが)、子供の世界のクライマックスだったザム2はの敵役はとにかく悪いやつであるDOUBTで、最終的には殴れば解決した訳です。ただザム3は九龍という大人たちを相手にして、そのやり方ではもう通じないというのが大きなポイントになります。
そして、それはシーズン2からザム1にかけて、MUGENというか琥珀さんが見てきたもので。大人になっていく龍也たちと変われなかった琥珀、子供のまま大人の世界と対峙するのに力だけを求めた結果としてのどうしちまったんだよ琥珀さん。ただ、そうやって道を間違えた琥珀さんも、生きていたからまたやり直せた。ノボルだってそう。そしてTEH RED RAINを経た雨宮兄弟も、兄の死を通じて見せつけられた世界がある訳で。

九龍グループが大人の象徴として描かれる汚さは殺害、隠蔽、政治的な力のかけ方で、それは拳一つで闘ってきたSWORDのやり方との対比になっていて、今回はそこにコブラがどう立ち向かっていくか、またこれまでを経た琥珀や雨宮兄弟がどう向かっていくかになっていたと思います。結局、公害隠蔽を暴いてどうこうなるのかわからないけど、自分たちの正しさを手に喧嘩して解決とは違う道を進んだというのが大事だったのかなと。そこにまた、西郷という清濁併せ呑みながら、己の正義を貫いた大人が最後に後押ししてるのもいいなと思いました。あと、九龍側もまたかつては何かを守りたかったというのが示されるのがまたいいなと。

MUGENの物語の大きなテーマだった変わっていくということは、今回RUDE BOYSや山王連合会が主に背負っっていたように思います。勝ったとか負けたとかそういう感じではなくて、守ったものが何で、変わっていくものが何で、どういうことの筋を通したかったのか、みたいな話。無名街がなくなるだとか、カジノができるか出来ないかではなくて、それも変化の一つで、じゃあ守るべきものは何だったんだという。そういう意味で、スモーキーのどこに行っても家族だは、龍也のMUGENがなくなっても仲間だろに重なるし、ハイローはずっとそういう話だったのだなと。永遠じゃなくて無限、というのも。なので、この先のことはわからないしたとえ九龍が壊滅しなくても、SWORDとMUGENと雨宮兄弟の物語としては、綺麗にザム3でまとまった感じがあります。

終わらない喧嘩祭りに終始してぶち上げテンションで全てを突破するのではなくて、子供の時代から大人の時代へという変化を描いたのは、ハイローは大真面目すぎるくらいに大真面目な青春作品だったのだなあと改めて感じた所でした。

 

ハイローのこれまでの作品に貫かれてきたように感じる、粗をなくすんじゃなくて、粗なんかいくらあってもいいから、とにかく描きたいもの、見せたいもの、伝えたいことに妥協はしないというスタイル。それが全て噛み合って熱が生まれると、減点法で見れば0点だけど加点法でみると10万点みたいな現状を引き起こすのだなあと思います。この感覚は覚えがあって、それが何かというと、キンプリとか、ラブライブ!とか、ガルパンの映画を見ている感じに近い。おれの考えた最強の映画、に実が伴って迫ってくるこの熱量。確信と勢いとライブ感。

そしてこの中の人とキャラのリンクする2.5次元感と多すぎるくらい多いキャラクター、強烈にぶっ飛んだけれどどこかで見たことはあるような設定、キャラクター同士の関係性で話を膨らませていくドライブ感。最近の流行りジャンルを追いかけてきたオタク的には、LDHという触れたことのなかった遥か異郷の地でも、やはりこれが今最新のエンタメなんだ、我々の住んでいる世界は間違ってはいなかったという謎の感動がありました。ハイローを見ることで偏差値が一桁になっていたので勘違いだった可能性もありますが。

ここまで見届けて、そりゃあこれは流行るだろうし、出会えてよかったHiGH&LOWという感じ。最高のコンテンツだと思います。

GODZILLA 怪獣黙示録 / 虚淵玄・大樹連司

 

 アニメゴジラの前日譚は、何故地球から人類は追われ、そして地球は怪獣惑星となったのか、その時代をドキュメンタリー形式で描いた一冊。

様々な人々へのインタビューを通じて、初めて人類が怪獣に相対したアメリカから、世界中に出現し続ける怪獣たち、発生する大量の難民と引金が引かれる人類同士の戦争、そして怪獣を遥かに凌駕したゴジラの出現、追い詰められた人類の前に現れた二種族の宇宙人とのコンタクトまでが描かれていきます。

いきなり怪獣出現とゴジラの進行が描かれた世界地図と年表から始まって、後はインタビューによってそれぞれの時代の空気や立場に基づいた言葉が並べられていくのですが、まあこれが大真面目な大法螺話といった趣で大変素晴らしいです。東宝怪獣総進撃という感じで、子供の頃怪獣図鑑をよく読んでいて割と詳しいと思っていた私的に懐かしかったり、流石に知らないというようなところまでネタが広いのですが、それ故にあまりにも大真面目な語りの中に、こう、突然にマンダとかカマキラスとかフレーズが出てくるのが楽しい。終盤になると異星人からもたらされた技術もあってか、メーサー砲とかスーパーXとか普通に出てくるのがなんというかもうあれです。モゲラも出てくるよ!

そんな感じでテンションを上げながら読んだのですが、一つ一つのエピソードにはばらつきがありつつもグッと来るような話も多く、この時代を如何に人類が生きてきたのかが分かるのがとても良かったです。アニメゴジラはこの怪獣惑星となった地球を人類が取り戻そうとする話のようですが、そこに至るまでの過程として読んでおいてよかったと思いますし、正直あまり期待していなかったアニゴジへの期待値が非常に高まる一冊でした。楽しかった!

うそつき、うそつき / 清水杜氏彦

 

うそつき、うそつき (ハヤカワ文庫JA)

うそつき、うそつき (ハヤカワ文庫JA)

 

 嘘をつくと赤いランプが光る首輪。一定期間のバッテリー交換が必要で、固有のシグナルを発する発信機やレコーダーが内蔵され、無理やり壊そうとすれば装着者を絞め殺すそれが、すべての国民に義務付けられた国。そんな社会を、首輪外しという裏稼業をなりわいとした少年、フラノの目を通して見るような一冊。

全てが首輪によって国に管理され、倫理感の崩れ去ったディストピア。これはそういう社会と、そこに暮らす人を描いた物語で、実際フラノのもとに現れる依頼人は、首輪があるが故の不自由が、首輪を外した後の不自由を上回る何かを抱えた人たち。犯罪者であったり、訳ありの母であったり、娘であったり、亡命を試みる者であったり。そこには首輪があるが故に明らかになるものが確かにあるのですが、フラノの目を通して見えてくる世界はちょっと違うように思えます。

失敗すれば人を死に至らしめ、故意に見捨てることだってできる。そんな稼業を営むには彼はあまりにも幼く繊細で、強烈にリリカルな文章が彼の苦しみを直接伝えてくるような感じに引き込まれます。やっていることがやっていることだけに彼に待っている未来が明るい訳はなく、次々と明らかになるくせにどこにあるかわからない真実は、彼を追い詰めていきます。彼の前に現れる人たち。優しい本当、身勝手な本当。優しい嘘、身勝手な嘘。首輪があるから、首輪がないからではなく、人は嘘をつく生き物で、それがちょっと可視化されたことでは変わらない。むしろ、見えてしまうからこそ、それは強烈な形で表に出るのかもしれないと思いました。

世界の謎や首輪の謎が解き明かされるわけでも、誰が何をどうしたかったのかすらはっきりとはしない、これはあくまで何かを信じようとして嘘に翻弄された一人の少年の話。それでも縋った思いすら、最後の最後で彼が見た首輪の色につながっていくのであれば、やっぱりこの首輪というのは最低で残酷な仕組みで、けれど物語としてはこの上なく美しい嘘だったように感じました。

10月のライブ/イベント感想

いい加減数が多すぎて、全部に感想を書いている訳でもないとどんどん忘れていくので、今月から備忘録も兼ねて参加したライブ等の感想まとめを。

 

10/7、10/8 THE IDOLM@STER 765 MILLIONSTARS HOTCHPOTCH FESTIV@L!!

両日LVで参加。まず大きな誤解として、765ミリオンとしてのライブだと思っていたら765AS+ミリオンの合同ライブだったというのがあって1日目は想像と違う料理出てきた感があったのですが、2日目は選曲がとにかく好みだった事もあって楽しかったです。

コロムビアの古い765AS曲からミリオン曲までごちゃまぜの相互カバー祭り。相変わらずミリオンは個々のライブパフォーマンスに光るものがあるし、それは765ASのメンバーを凌駕する部分が多いです。でも765ASのあの存在感なんなんでしょうね。立ち居振る舞いというかオーラというか、場の支配力がまるで違うのは、単純に踏んできたステージの数なのか、修羅場の数なのか。

あとこの組み合わせ、ぴょん吉、ころあず、戸田くんみたいな直系組もそれ以外も舎弟感出るので、アイマスの縦の関係をめっちゃ感じさせるのは良し悪しかなあと。縦の伝統と崇拝は、元々強いアイマスの宗教感を強烈にする気がするので。シンデレラでもアイマスに憧れて入ってくるメンバーがどんどん出てくる現在、今更の話かもしれませんが。

 

10/14 AYA UCHIDA LIVE2017 ICECREAM GIRL

ICECREAM GIRL(初回限定盤A)(CD+Blu-ray)

ICECREAM GIRL(初回限定盤A)(CD+Blu-ray)

 

 内田彩基準では久しぶりだったアルバムを引っさげたライブ。ソロデビューを嫌がって、ステージでもぐにゃぐにゃしてた人がよくもまあここまで......みたいな感慨あり。あの武道館全曲ライブまで走り抜けて、その後の体調不良があって、それからもう一度自分のペースで歩み始めた故の喜びと余裕みたいな。

歌も踊りもできる人ですが、やっぱり声優なので表現力、それも曲ごとにガラッと切り替わるところが凄いなと思いました。ロック系、EDM系の違いもですが、とにかく曲ごとに表現の仕方が全然違くて、引き込まれるものがあるなと。バックダンサーを引き連れた「カレイドスコープロンド」なんて、今までになかったものが、いきなりこのクオリティで出てくるのかと思いました。

ラブライブであれだけできる人がこんなもんなはずがないと思っていた、あの頃の未来にこのパフォーマンスがあるというところに「SUMILE SMILE」、そして喉の手術も乗り越えた先に「Ordinary」があるというのは、ちょっとエモさがすぎます。曲ごとの物語を演じるタイプの人が、明確にファンへの言葉を歌う曲というのは、本当にズルい。

 

10/21 KING OF PRISM SUPER LIVE MUSIC READY SPARKING

劇場版KING OF PRISM -PRIDE the HERO-Song&Soundtrack

劇場版KING OF PRISM -PRIDE the HERO-Song&Soundtrack

 

LVで。楽しいのはアニサマの時の感じでわかっていて、なるほどこんな感じなのか、この人はこのキャラではこういうパフォーマンスなのかとか思いながら見ていたのですが、大和アレキサンダーこと武内駿輔くんの登場とともに冷静さがふっとんだんですが何だあれ。

いや、すごいんですよ。武内くん。キャラも相まってのオラついた感じと時折透ける年相応な感じ。あの髪型で結構顔が良くて、スタイルが良くて歌がうまくて声が良くてダンスも踊れる。で、あの色気。武内くんが歌って踊るコンテンツはちょっと抑えておくべきかなと思いました。でっかい波が来る気がする。

 

10/22 Anisong Ichiban!! presented by HoriPro featuring JAPAN POP CULTURE CARNIVAL 2017 IN MATSUDO

アニイチはもうただ楽しいだけのイベントだと分かっているのですが、やっぱこういうカラオケ系イベントは盛り上がる曲ばかりを縦横無尽に繰り出せるところが強いなあと。あと、やっぱりホリプロ声優は歌がきっちり上手いので映えますし、そんな人たちの持ち歌では見えない色が見えるのも面白いです。アニイチは大分長いイベントですが、カラオケMAXといい声優カラオケコンテンツはこれからもっと盛り上がりそうだなあと。

序盤のへごのUNISON、KANA-BOONからの大木くんのBULE ENCOUNTという来るイベント間違えたかな感のある流れも最高に盛り上がったのですが、この日のMVPはエロマンガ先生から「adrenaline!!!」、おにあいから「SELF PRODUCER」と自分の出演作のキラーチューンをまとめてきた木戸ちゃん。盛り上がりすぎて死ぬかと思った。

あとTrySailの出演しているミューレフェスとイベ被りしていたにも関わらず「adrenaline!!!」のコールが完璧なオタクたちのことが私は好きだよ。

恋と禁忌の述語論理 / 井上真偽

 

恋と禁忌の述語論理 (講談社ノベルス)

恋と禁忌の述語論理 (講談社ノベルス)

 

 高校生の主人公が、数理論理学を専門にする叔母の硯さんのところに事件を持ち込み、それを硯さんが推理するという形のミステリ連作短編集。

この作品の何が特色かといえば、そのアラサー独身美女でどこか世間ずれした硯さんが推理に使うのが数理論理学だというところ。キャラクター含め過剰なまでに演出された主人公の持ち込む事件を、公理と命題と推論規則に落とし込む。そこにあるのは、キャラクターの考えや動機なんてものは入り込むことはない、ただ純然たる論理として、その結論が導けるかどうかだけ。

故に硯さんは現場に居合わせるわけではなく、主人公が持ち込む現場で起きた不可解な事件の話を聞き、それを解決した探偵の推理が証明可能なものであるかを検証するのみ。それはもはや安楽椅子探偵というか、探偵の正当性を検証する存在であって、具体的に事件の真相を推理するわけではありません。というか、これは証明できない、この可能性があるという提示はするのですが、じゃあ硯さんの推理が正しいかというと、自分でも言及してる通り公理に検証が必要だったりと、はっきりとしたものではなく。

それはまあ数理論理学というものの性質を考えればそのとおりかもしれないとはいえ、何だかなあと思う部分もありつつ読んでいたのですが、最後まで読んでなるほどと思いました。そういう仕掛けであるのならば、作品構造として、硯さんの立ち位置はまさにそれが正しいのか、と。

ミステリの形式を取りつつ、半分くらいは数理論理学のテキストなんじゃないかという作品で、正直内容を全部理解できたかというと微妙なところもあり、仕掛けに納得はしたものの、それで面白いのかというとなんだかなあと思うところもあったりはします。でも、この一点突破の歪さと、それでも全体としては形になっている感じ、そうだよなメフィスト賞だもんなこれくらい尖っているよなと、不思議な満足感があるのは確かでした。

3月のライオン 13 / 羽海野チカ

 

 これまでにスポットの当たらなかった人も含め、色々なキャラクターを描いた短編集のような構成の13巻。滑川さんの話や、二海堂の真っ直ぐさ、眩しさも良かったですが、一番印象に残ったのはあかりさんの話。

自分のことを後回しにして、誰かのために頑張って、それでも人との間には一線を引く。そんな彼女の生き方がモノローグで語られると、彼女をそうさせてしまった過去の重さが胸にくるものがあります。だから、彼女があの時の出来事を、素直に嬉しかったと言えるのは素敵なことだと思うし、素の彼女でいられる場所で、絶対に幸せになって欲しいなと思いました。そして島田八段格好良すぎる...…。

読んでいて感じるのは、ままならない家庭環境だとか、勝負の世界の厳しさだとか、描かれているものはいつだって重くて苦しくて、それでも作者は人が生きることは美しいことだと信じているんだろうなということ。だから、この作品は、ああ美しいなと思えるのかなと感じました。