【マンガ感想】とある科学の超電磁砲 外伝 アストラル・バディ 4 / 鎌池和馬・乃木康仁

 

「何もかもを救えるわけじゃない わかっているけどだからこそ 
この手をけして離さない」

食蜂操祈やっぱ好きだなと思った完結編。精神操作のレベル5であるが故に偽悪的に振る舞う、本当は仲間想いな食蜂派閥の女王様。操作なんてされなくても仕える人がいるのも納得というキャラクターだなと思います。

そして帆風は主人公しているし、黒子はカッコいいし、初春は相変わらずチートだしでそれぞれに見せ場があり、最終的に帆風と悠里が望む未来を掴み取る物語。ですがなんともやるせない気持ちが残るのも確か。というのも、これは最善の結末ではあるけれど、『内部進化』の過去を踏まえてこの物語の結末を見ると、何もかもハッピーエンドだなんてとても言えない訳で。

そもそもこれ、才能に大きく影響される能力格差が明確にある社会と人体実験により子どもたちに能力開発を行う研究所の掛け合わせな時点で、倫理観の欠片もないお話です。だからこそ研究所が起こした事故の先に生きることになった彼女たちのコンプレックスや執着が、強い感情の人間関係を織りなして面白いシリーズではあるものの、歪んだ基盤の上に物語が展開していることは間違いないです。その結末として、ようやく素直になって前を向いた帆風の想いが引き寄せたこれは彼女を中心とした最善ではあるものの、精算できないものははるかに多く残っていて、なんともなあという思いもありました。

いやほんと学園都市の研究施設は胸糞悪いのばかりかよと思うのですよね。内部進化の人たちも子どもたちも悪人ではないのが逆に何とも。そして内部進化含め才人工房から真っ当に育った子たちって、結局のところ能力のレベルが高い子では……みたいなところを含めて、やりきれなさの残る物語でした。自殺未遂からこの出来事があって、新約11巻のあれに至る蜜蟻、確かに最後は救われたのかもしれないけれど、いったい彼女の何がいけなかったんだよって思うじゃないですか……。辛みがある。

【小説感想】安達としまむら 9 / 入間人間

 

安達としまむら9 (電撃文庫)

安達としまむら9 (電撃文庫)

 

 安達としまむら以外に焦点を当てたり、過去の話だったりの短編集。そして今回は日野と永藤の話が良過ぎました。特に日野の家出の話が、ものすごい解像度で切れ味鋭かった。

日野という良家に生まれたお嬢様と、ごく一般的な肉屋の娘。そんな二人の出会いは保育園で、そのまま当たり前に隣にいる関係が続いてきて。家に収まりの悪さを感じる日野が家出を試みた中学時代、結局お目付け役付きの旅行になってしまったそれについてきた永藤。その中で日野と永藤の関係の形を掘り出していくようなお話なのですが、なんだかもうシチュエーション、モノローグ、会話まで冴え渡っていて凄かったです。

彼女たちを連れ出してくれた江目さんがかつて日野の奥様と選んだ生き方。いつか家を継ぐ人と2人で生きていくために、お手伝いさんとして側にあり続けることを選んだ彼女たちの世代、そしていつかの旅の記憶が、少しずつ変わっていく日野と永藤の関係にオーバーラップしながら、けれどそのまま同じではない。日野父の不器用に娘を想う気持ちも含め、大変良いものを読んだという気持ちです。

あと、中学時代のしまむらがまさにしまむらという感じの尖り方でそうそう君はこういう子だった、この他人への無関心さこそと思ったり、安達母と島村母の不思議な関係からのまさかの安達親子クリスマス会も良かったです。

いつも思うのですが、入間人間の文章は、色と匂いと触感までセットで想起されることが多くて、知っているあの日の感覚を引きずり出されるように思います。今回の幼少期の永藤が日野の家に初めて行った時に広い部屋に感じたものとか、子供の頃父の上司のお屋敷に連れて行かれた時の感触が蘇ってくる感じ。そういう感覚に訴えかける文章が書けるからこそ、人と人の間に流れる空気感を描くのが抜群に上手いのだろうなと思いました。

【マンガ感想】BURN THE WITCH 1 / 久保帯人

 

BURN THE WITCH 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)

BURN THE WITCH 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)

 

 読み切りでこれ好き! と思ってから首を長く待っていた本連載、それがシーズン連載&アニメ化のセットでやってきたので私は大変満足です。

ロンドンの裏側、リバース・ロンドンを舞台に、一般の人には見えない異形の存在「ドラゴン」の保護と管理を仕事にしている二人の魔女を主人公にした物語。そしてこの設定、BLEACHとの繋がりが最後に示されるの洒落てるなと思います。確かに言われてみればまんまなのに、読んでいる途中は全く気が付かないくらい、この作品単体でも成立していて、その上でこういう見せ方をしてくるのはファンは嬉しいだろうなと。

個人的には女の子主人公の少年漫画的な話が大変に好みなので、もうど真ん中ストライクという感じ。さすがというか、キャラクターの魅力とその見せ方のセンスがずば抜けていて、読んでいて気持ちが良いです。ニニーの勝ち気で強気で、ただそれを裏打つ覚悟がある感じは大好きだし、のえるのジト目でローだけど思ったことはそのまま口から出る感じも良き。感情が表には出にくいだけで、ちゃんと動いている心が表に出る瞬間、やっぱずるいよなって思います。啖呵切るシーンかっこよすぎ。そしてこの2人、基本的にめちゃくちゃに我が強くてお互い合わせようなんて思っていない感じなのに、何かあればしっかりバディとして並び立ってるのが大変良いと思いました。そういうの大好き。

それから、見た目は冴えない昼行灯のおっさんで実は……というチーフもまたそういうの好きって感じだし、今の所すっかりピーチ姫扱いなバルゴ君も何か隠されたものがありそうで楽しみ。いやしかし何だかんだ言われながら愛されてるね、バルゴ!

シーズン連載で趣味100%で描いていますという感じの作品なのに、このキャッチーさとクオリティで出てくるのだから少年ジャンプのトップレベルって凄いって思う一冊です。次のシーズンもとてもとても楽しみ。

 

ところで私はBLEACHをアランカルが出てくるあたりまでしか読んでいないのですが、調べたらまだ全体の1/3にも行っていなくてびっくりしました。えっ、尸魂界篇ってそんな序盤なの……。

【小説感想】竜と祭礼 1-3 / 筑紫一明

 

竜と祭礼3 ―神の諸形態― (GA文庫)

竜と祭礼3 ―神の諸形態― (GA文庫)

 

 見習いの魔法杖職人イクスが、併合された東方の王族の娘ユーイの持つ、亡き師匠が作った杖修理の依頼を引き受け、その芯材として心臓が使われたおとぎ話の生物である竜に迫っていくという物語が1巻。そして、ある街の祭りと魔女の謎に迫るのが2巻。どちらも、魔法を使ったバトルのような派手な展開ではなく、文献にあたり、聞き込みをして、実地での調査を進めていくというフィールドワーク的な手法で、伝承上の存在に迫っていくというのが面白いシリーズです。

そういう作品なので、歴史や宗教、その村が受け継いできた文化などが重要なヒントとなっていて、そこの設定が厚いのが地に足のついた空気と、一歩ずつ調べていくという学術調査的な楽しさがあります。宗教の新派が否定したことで断絶した祭事に手がかりがあるとか、そういう調べて知っていくことのワクワク感が良いなと。

そんなふうに1巻は「竜」、そして2巻は「魔女」というロマンのあるテーマを追いかけていく物語ですが、3巻は少し毛色の違う話になっていて印象的でした。

というのも、3巻は確かに亡霊や究極の杖というテーマが掲げられて入るのですが、ほぼ権謀術数の話なのです。マレー教新派の神学会議に連れてこられたユーイ。異教の民である彼女は誰の何の目的でそこに来たのか。いずれ国を動かすであろう宗教会議でそれぞれの思惑が入り組む中で、偶然その街の修道院で杖作りを依頼されていたイクスと、もう重なるはずがなかった運命が少しだけ触れるようなお話です。

それまでも割とシビアな世界観で、特に滅ぼされた国の王族として人質のような形で連れてこられたユーイの周りには政治が絡みついていて、変わり者たちが仲良くフィールドワークをするだけにはならなそうと思ってはいたのですが、ここまでやってきたロマンティックな探求にまるごと冷や水をかけるような話を持ってきたのは驚きでした。

ただ、この作品が提示してきた世界観の中で、極めて善良な少女だったユーイと純朴な杖職人見習いだったイクスの青年期の終わりの話をするのならばこうなるよなという納得感は強くあります。異国の民としてのユーイ、魔法が使えない杖職人としてのイクスという、彼女たちが部外者であることはずっと強調されていて、それならば、この国のあり方に馴染み、その枠の中で生きるという道は選ばれようがなかったのだなと。結果、善良だった少女は故郷のために喰えない政治家として、究極の杖を夢見たはずの青年は魔法杖のあり方を変える存在として大人になり、その話にロマンチックな幻想は不要なのでしょう。

2巻で魔女という仕組みが解き明かされた時も綺麗だなと思ったのですが、それ以上に3巻通じてこの結末に帰結したこと、彼と彼女が手に入れたものと失ったものが、悲しくも美しく感じる作品でした。デビュー作ということもあってか、情報や感情を追いかけるのが難しくなるところもありましたが、とても好みなシリーズでした。

【小説感想】閻魔堂沙羅の推理奇譚 A+B+Cの殺人 / 木元哉多

 

閻魔堂沙羅の推理奇譚 A+B+Cの殺人 (講談社タイガ)

閻魔堂沙羅の推理奇譚 A+B+Cの殺人 (講談社タイガ)

  • 作者:木元 哉多
  • 発売日: 2020/09/15
  • メディア: 文庫
 

 今回は地上に降りていた沙羅が帰れなくなって事件に巻き込まれるという、今までとは違う展開を見せる長編。

そんな事件の当事者たちは、ヤクザ崩れで無職で酒浸りの父親と末期がんで余命幾ばくもない母親。そして父親のもとを離れて暮らそうとする小学生の息子と娘。このシリーズは、生き返りで人生をやり直すことで更生するカタルシスが魅力なので当然ではあるのですが、今回もなかなかリアルさのあるどうしようもなさが辛いです。

ただ、この超絶ロクでなしの父親も、読んでいると完全には憎みきれないというか、妙な人間らしさを感じるところがあります。ボタンの掛け違いというにはひどすぎる人間模様も、惨めさも強かさも、どこか愚かしくも必死に生きている人間たちの物語という感じがあって、事件の解決とともに、自ら動き出すことで少しだけ風向きが変わっていくのが、素直に良かったなと思えました。人間ドラマと閻魔的な価値観と生き返りの推理ゲームがしっかり噛み合って、まとまり良く完成度の高い一冊だったと思います。

 

あとこれ、一冊まるまる使って沙羅が壮大なツンデレかます話だった気が。

今回は直接的に事件に巻き込まれ人間たちと触れ合う沙羅なのですが、直接人間の世界に手を加えないという閻魔のルールを守りながらも、閻魔大王から無理やり審判の役目を奪い取ってまでこの家族に関わろうとするのは、かなり踏み込んだ介入です。

そして、散々ぱら因果応報のお説教を語り、人間は愚かだ馬鹿だと何度も何度も言いながら、その人間に入れ込んで手助けしちゃう閻魔大王の娘って、それはもう王道ツンデレ以外の何物でもないでしょう。言うに事欠いて「お友だち」って君は実際のところチョロいな! っていう。

閻魔としては相応しくないこの人間への入れ込みが、果たしてこれからの沙羅にとって良いことなのかは気になるところですが、それはさておき、閻魔堂沙羅というキャラクターの魅力を存分に感じられる一冊だったと思います。面白かったです。

【小説感想】楽園とは探偵の不在なり / 斜線堂有紀

 

楽園とは探偵の不在なり

楽園とは探偵の不在なり

 

 二人以上殺した人間を地獄へと堕とす『天使』が降臨した世界で、孤島の館を舞台に起きる連続殺人事件を描くミステリ。

特殊条件付きのミステリで、二人殺したら有無を言わさず地獄に堕ちるはずなのにどうして連続殺人が起きるのか、犯人が複数いるのか、あるいはというところと、天使が罪人を裁く世界での探偵のあり方が読みどころ。雰囲気からトリックまで、なんというか、講談社ノベルスっぽさを感じる一冊になっています。

この作品全体に影を落とし続けるのは『天使』という存在です。在る時突然降臨し、二人殺した人間を地獄へと堕とす。生き物のようで顔のない無機的な雰囲気も持つ、意思があるかも分からない、蝙蝠のような翼で空を舞い、砂糖を好む存在。高次の存在というよりも、突然世界に現れた不条理の体現みたいなもの。

けれど、天使という存在が全ての始まりであっても、これは人間の業の物語なのだと思います。天使は人智を超え、理解の及ばぬところもあり、それでも、二人殺せば地獄行きというシンプルなルールでしかない。意味を見出すのも、天国や地獄を想うのも、それが故に何をするのも、全ては人のやることです。天使に入れ込んだ実業家も、天使を利用する者も、それを追いかける者も、怯えも、怒りも、諦めも、天使は全てに関知しない。ただ、人を二人殺す以外には。

だからこそ、焦点が当たるのは天使そのものではなくて、天使の降臨した後に人が何を考えて、どんな行動をしたのかになります。世界はどう変わり、どんな因果が生まれていったのか。そして天使のいる世界で為されたことは因縁となり、この天使が集められた島に連続殺人という形で帰結します。それはまさに、天使の降臨から始まった人の業をぎゅっと濃縮したみたいな舞台だと感じました。

そしてそれを、天使がいる時代に理不尽にすべてを奪われた探偵が向き合うという形で、あくまでロジカルなミステリとして切り取っていきます。探偵は再び立ち上がることができるのか。それは極めて個人的な問題であるけれど、彼が事件に向き合い、解き明かすことで、果たして天使のいる世界に光はあるのかというテーマも同時に浮きあがる。そういう物語になっているのがとても良かったです。

【小説感想】はたらく魔王さま! 21 / 和ケ原聡司

 

はたらく魔王さま!21 (電撃文庫)

はたらく魔王さま!21 (電撃文庫)

 

 異世界から日本に流れてきてマグロナルドではたらく魔王様と、やっぱり日本に流れてきてテレアポの仕事をする勇者の庶民派ストーリーもこれにてシリーズ完結大団円。

巻を重ねるごとにスケールが広がっていくエンテ・イスラ側のお話にこれ本当に畳めるのかなと思っていたのですが、450ページのボリュームで、かなり力技ではありますがまとめてきたので安心しました。その後の日常と神討ちの話がパラレルで展開されるのは、読んでいる方とすればかなり混乱もあったのですが、でも魔王と勇者の庶民派な日常があってのこのシリーズで、最終巻ではエピローグだけとなったらそれは違うのだろうなと。

なんにしても、あの状況からやっぱりこうでなくちゃっという結末に至るまで、山積する課題をちゃんとひとつずつ片付けていくのが、ずっと丁寧だったこのシリーズらしいなと思います。

そう、過剰なまでに真摯で丁寧なのが良くも悪くもこのシリーズだったのかなと。異世界からきた魔王と勇者のちょっとずれた日常コメディの面白さがこの作品の魅力で、でもシリーズ化するに当たって彼と彼女が仲良くするには、その異世界で魔王が攻めてきて勇者が立ち向かったという出来事をちゃんと精算する必要がある。でもお話的にはそこばかりやってたらちょっと違う作品になってしまうはずで。

それを小さなところから向き合い始め、アラス・ラムスという子は鎹を地で行く存在が現れ、エンテ・イスラの在り方そのものをひっくり返すようなスケールの設定と世界中を巻き込んだ物語となり、巻き込んでしまった人間世界の少女のことにも向き合いながら、彼らが日本で過ごす日常は守るべきものとして最後まで描かれ続けて、こじれた魔王の人間関係も整理して、最終的にセフィラや神討ちという世界規模のお話に決着をつけながら、魔王と勇者の在り方を定義し直してこれからも続く日常を描き出して見せたのだから、それはもう大変なことだと。

ギャグ時空でなあなあになってもおかしくないものに最後まで向き合い続けて、そしてそれがシリーズの面白さになっていたのだから、不思議な作品だったと思います。世界の命運をかけて闘う人たちなのに圧倒的なご近所感が無理なく両立しているキャラクターの魅力か、結構なシリアスになっても、ずっと優しさというか、柔らかさがあるのが良かったのかなあと。

 

そしてこの結末、圧倒的に千穂ちゃん総取りって感じでは……? 魔王に惚れて勇者と仲良しで天使と戦いエンテ・イスラの有力者の覚えもめでたい作中で一番チートな女子高生だった佐々木千穂さんですが、最終的に己の望みうるもの全てを手に入れている感じが流石やなと思いました。守りたかった日常のことも、好きだった真奥のことも、足を踏み入れた異世界のことも、日本での将来のことも、何一つ逃しはしないという意思を感じる。だって、恵美と真奥とアラス・ラムスと囲む食卓は絶対に守りたいけど、真奥の一番は絶対に自分だから、恵美が真奥を好きなのは知ってるけど側にいるのだけは許してあげるね、みたいなムーブですよこれ。強い。