ルカ -楽園の囚われ人たち- / 七飯宏隆

ルカ―楽園の囚われ人たち (電撃文庫)

ルカ―楽園の囚われ人たち (電撃文庫)

なかなか面白かったです。
"箱庭"で生きる世界で最後の人間である少女と"箱庭"を管理するAIと"箱庭"に住み着いた幽霊達を巡る終末モノ。基本的に出来が良い所に、個人的に滅びの話が好きなのもあいまって結構楽しめました。
最初の方の家族ごっこはキャラクター達のあまりの不自然さが鼻についてしょうがなかったのですが、文字通り家族ごっこだったならそれもしょうがないです。ただ、全体的に幽霊達のキャラクターはちょっと弱いかも。ティピカルな感じ。
家族ごっこという砂上の楼閣的な幸福が崩れていくところはすごく好きです。無理やりに終わりを引き伸ばして演じてきた幸せな家族ごっこが、少女のちょっとした疑問から崩れていく様の負のカタルシスとか、それでも作り物の幸福に縋り付こうとする様とか。そこにAIの謀略とその驕りによる失敗とが絡まってくるのが後半。この小説、視点がそのAIなんですが、妙に人間っぽいながらもAIっぽさもあって良い感じ。後半の少女の変化なんかもちゃんと描けてると思います。残酷ながら美しい滅びの話ってやっぱり好きです。

"箱庭"で育ってきた少女にとっては幽霊とAIとの暮らしが幸せの全てであってそれを正しいとし、人類のための行動をとるAIは人工飼育推進的な立場をとってそれを正しいとするっていうのは変わった話では無いですけど、少女が「人類最後の一人」でるからこそ少女の立場に説得力があるんだと思います。人類のためが少女のためと一致している世界。セカイ系って呼ばれる作品との違いは社会が飛ばされるのではなく実際存在してないところ。そんな自己完結の世界が幸せに滅んでいく様だから、読んでて嫌な感じにならないのだと思います。
結局この話は家族愛の話なのかなと思うのですが、こういう「私」とか「きみとぼく」とか「家族」の話とかが流行るのは、結局世の中が複雑すぎて何が良いことなのか訳が分からなくなって、それを分解していって残った確からしいものっていうのがそういうレベルの物事だからで、それがある種至上的に扱われるのもなんか分かる気がします。ちょっと蛇足ですが。
満足度:B+