永遠のフローズンチョコレート / 扇智史

永遠のフローズンチョコレート (ファミ通文庫)

永遠のフローズンチョコレート (ファミ通文庫)

意味なんてものは、何も無い。
小説には著者が読み手のために書いたものと、自分のために書いたものがあるとして、これは明らかに後者の小説。まぁ、それは程度の問題なのですが、それにしたってこれは極端に衝動のみで書かれている気がします。ミステリーでもSFでもファンタジーでもなく、エンターテイメント性はほとんどなし。しかもストーリーらしいものも盛り上がりらしい盛り上がりもなし。急に変わる文体も、仕込まれたサブカルネタも、章タイトルのもじりも、小説そのもののためではなくそうしたかったからやったという感じです。
話は殺人者の少女とその恋人と、彼女が殺そうとした不死の少女の3人のみで進みます。それ以上でもそれ以下でもなく、ただ淡々と3人のあらかじめ壊れきった日常が進んでいく感じ。虚無的とか冷めてるとか諦観しているというより、褪せてしまっているという表現がぴったりします。淡々と乾いた文章も相まって、本当にただひたすら空虚。暴力も性もなにもかもがひたすらに虚無的。読み終わったときに本当に何も残らない、何かを伝えようという切迫感も感じられない、ただ壊れた虚無があったというだけの小説です。だから読み終わって、「そういうこと」にしてしまって構わないという。
なんというか、これは世界から断絶されたディスコミュニケーションの感覚を描いたものなんじゃないかなと思いました。この2人+1人は、一般社会からは断絶されておいて、その疎外感が空虚さに繋がってるような。社会からは断絶されていて、だからといって虚構の楽園も作れない人達の、それでも生かされている日常で崩れていくような感覚。そういう感覚が届くような非常に狭い層にははまるんじゃないかなと思いました。それ以外の層にはちょっと勧めにくいです。個人的には結構好き。
装丁は素晴らしく素敵。しかしここまでやるなら背表紙も茶色で統一して欲しかったです。ここがファミ通文庫の限界か。
満足度:B+