零式 / 海猫沢めろん

零式 (ハヤカワ文庫JA)

零式 (ハヤカワ文庫JA)

ちょっと読もうと思って寝る前に読み始めて、気がついたら最後まで読みきっていました。
『左巻キ式ラストリゾート』の海猫沢めろん最新刊。まさかハヤカワからでる日が来るとは。キワモノだと思って読んだら、思いのほか真っ当に面白かったです。むしろかなり積極的に面白いかも。
舞台は二次大戦で本土特攻が成功していた世界で、帝国の植民地となった、四方を壁に囲まれ鎖国した神國。物語は大筋では、ドラッグや暴力のはびこるスラムな街で育った暴走賊の少女朔夜と囚われの天子夏月の二人の少女が壁を越えようとするストレートな青春小説なのですが、右翼カルトとか色々でてきて割と不思議な世界を作っています。様々な要素がごった煮されていてなんとも説明しづらい感じです。
話筋などはかなり粗い気もするのですが、そんなことより小説全体から溢れるエネルギーが凄いです。朔夜の感じる焦燥感や憎しみ、そして圧倒的な暴力といったものに流されます。何から何まで過剰。バランスを取ってまとまったものを書こうとしているのではなく、気持ちをぶつけているような感じ。だからこそ引き込まれるものがありました。かといって、物語が破綻していたり滅茶苦茶だということはなく、まとまってはいますけど。
汚れて腐った世界の中でもがき苦しむ朔夜とただ空を夢みる夏月、そして二人が出会い、やがてくすぶっていた朔夜の想いが前を向いてからの展開はむしろ爽快。原始駆動機を中心に据えて、速度への憧憬を描いているだけあって、全体的に疾走感がありました。青春小説的な部分だけでなく、ゼロカルトなどの設定や発動機へのこだわり、物語の構造などもなかなか。リズムの良い文章もなかなか格好良いですし。
最初はこの小説がリアル・フィクションの一冊として出たのは、最後まで読んでなんとなく納得。左巻キでも感じた「前へ進め」に加えて、「走れ!」という感じ。
もがいてあがいて夢を見て、そして走り抜ける物語。この空気はかなり人は選びそうですが、私は好きです。
満足度:A