声で魅せてよベイビー / 木本雅彦

声で魅せてよベイビー (ファミ通文庫)

声で魅せてよベイビー (ファミ通文庫)

ハッカーの少年と声優志望の少女の恋をして夢を追いかける話。
孤高であろうとするハッカーの少年と、仲間を求める腐女子で声優志望の少女が出会い、ぶつかったりすれちがったりしながらも声優という夢を目指して歩んでいくような話です。二人の性格が逆方向を向いて違うだけに、色々ぶつかったりもしながらちょうどいい関係を探していくのがまたこっぱずかしい感じで良いと思います。
全体的に展開にもキャラクターの考えることにも無理がないというか、すごく自然な感じなのが良かったです。同人誌即売会で出会ってから付き合い始めて、声優を目指す中で苦しむ沙奈歌と孤高を目指すあまりにどう支えて良いのか分からずに戸惑う広野、そして劇団に入ってからクライマックスまでテンポ良く滑らかに進んでいく感じがしました。おっちゃんとか大関や椎名も良い味出してます。そしてリズム感のある特徴的な文体や、コンピュータ関連のネタもなかなか。全体的に完成度は結構高いのではないかと思います。
ただ、ひとつ問題だったこととして、私はこの主人公が嫌いなのでした。孤高であろうとする広野の気持ちは分からなくもないですし、沙奈歌が目指す世界では特別であることが大事なのも分かるのですが、それでもこの主人公は身勝手で押し付けがましい奴にしか思えない。沙奈歌に対して関わるスタンスが自分はどう思うかで、その思ったことを押し付けているようにしか見えません。相手の気持ちを推し量ろうとする努力が見られないというか。それでいて自分の問題には立ち入らせないし。二人で困難を乗り越えると言ってるにしては、それはあまりにも自分勝手な態度だと思います。まぁ、私がそう思うのはここで目指されているお互いの気持ちに深入りしない関係性というものに対して、価値観の違いを感じるからなのでしょうけど。
あと、腐女子という設定はあらすじなどで紹介されてる割にあまりいかされてないかなと。踏み込んで語るには難しい世界ではありますし、仕方がないのかもしれませんが。
満足度:B+