たま◇なま 生物は、なぜ死なない / 冬樹忍

たま◇なま ~生物は、何故死なない?~ (HJ文庫)

たま◇なま ~生物は、何故死なない?~ (HJ文庫)

第一回ノベルジャパン大賞「大賞」受賞作。
理不尽な暴力によって家族を失い、絶望の中に生きる少年氷見透のもとに現れた、宇宙人の少女。透を勝手に改造し「つがいになれ」と迫る少女由宇には目的があって……、という話で、パターン的にはいわゆる普通の落ちものラブコメなのですが、何か妙に漂うダウナー感が特徴的。
というのはメインテーマに、「人はなぜ生きるのか」が掲げられているからなのでしょう。人との関わりを避け、望むことすら辞めた少年と、すべての物事を自らの目的と手段と捉え、論理のみで思考する宇宙人の奇妙な共同生活の中で、常に前向きな灯璃という少女や、力を振りかざす卑口という男とも関わりながら、少しづつ変わっていく2人の姿が印象的。特にすべてを合理性で測っていた由宇のセリフや行動の中に、少しづつ混じっていく何か別のものの存在は印象的でした。静かで、でも確実な変化。そして一気にラストへ向かう流れはお見事。物語の中でこのテーマに対してキャラクターたちが選んだ答えも、個人的には非常にすんなりと腑に落ちるもので、良かったと思います。
ただ、全編通じて淡々としていて、盛り上がっているのに盛り上がっていると感じられない部分も。溜めを作ったり、緩急がついたりすれば、もっと引き込まれるようなパワーが出てくるのかなとは思いました。落ちものなのに、落ちてくるシーンがさらっと流されるような、低体温な感じが味だと言うこともできると思いますけど。
あと、透と由宇の掛け合いは絶妙。噛み合ってるようでちょっとズレたようなとぼけた味わいがあります。価値観の違いというか、思考パターンそのものが違うもの同士の奇妙なコミュニケーションでした。
満足度:B+