きみとぼくが壊した世界 / 西尾維新

きみとぼくが壊した世界 (講談社ノベルス)

「読んだ人間は死ぬ」という小説を書いた作家からの依頼を受け、病院坂黒猫と櫃内様刻はその謎を解くためにロンドンへ、といった感じの世界シリーズ学園外編。
内へ内へと閉じていくような空気を持つ「世界シリーズ」と名づけられた一連の作品と、海外旅行などというそぐわなそうなものをどうやって合わせるのかと思ったら、ほとんど反則気味のテクニックで本質を外しながら壊さないことを実現していてびっくり。でもこのネタ、ほとんど一発ネタに近いので、何回も使えるものじゃないよなぁと……。
ミステリ的には短い章ごとでそれぞれ謎が提示されて解決されるのですが、そのトリックの強引さも含めてアリにしてしまう構成がなんともはや。確かにそうだと思わざるを得ない理由でひっくり返され続ける真相に、段々とどこまでが真実なのかわからなくなっていくこと請け合いです。
そんなギリギリ感の漂う作品ですが、最大の見所はやはりくろね子さんの魅力に尽きるのではないかと。実際にロンドン観光をしているような形で登場する各スポットでの彼女の一喜一憂の反応に意外な一面を見られる部分も良いですが、それより何より最大の魅力は様刻との友達以上恋人未満的な仲良しいちゃいちゃぶりでしょう。ちょっとした会話の応酬も萌えますし、様刻のやった仕打ちに見せる反応なんて悶え転がりそう。特に今までどこか人間離れした得体の知れないキャラクターだと思っていたくろね子さんの一人称視点などは、思った通りの変人ぶりと予想外な可愛らしさが共存していて大変魅力的でした。
とはいえ、今までシリアスだった病院坂黒猫のキャラクターをこんなにを崩して大丈夫なのかと思っていたら、最後の最後で辻褄を合わせてきたのはさすがというか。いまいち釈然とはしませんが、キャラクター小説書きとしての作者の魅力が炸裂した、読んでいる間は抜群の楽しさを発揮する小説でした。