さくらファミリア! / 杉井光

さくらファミリア! (一迅社文庫 す 1-2)

さくらファミリア! (一迅社文庫 す 1-2)

杉井光の新境地なドタバタラブコメディ。
怪しげな団体に大量の借金を残して失踪したろくでなしな魔術師の父。そんな父にユダの生まれ変わりだと告げられた祐太の元には、神の御子の生まれ変わり(美人双子姉妹)、大天使(ナイスバディお姉さま)、地獄の魔王(幼女)が次々に集まりいつのまにやら家族生活が、というノリの一冊。
ちょっと変な女の子たちに主人公が愛され過ぎて振り回されまくったりするハーレムラブコメに、聖痕や罪痕で闘う異能バトル要素が追加されたりする感じ。投げやりなんだかノリノリなんだかいまいち分からない暴走気味のテンションで、メタになったり驚きの事実が分かったりする辺りも見所ですが、何よりこの小説の見どころはキリスト教の人に怒られそうなその設定の使い方かと。
何しろ大天使ガブリエルはセクハラし放題なダメ人間で魔王はすぐ泣く幼女で神の御子は若干頭の弱い感じという。その他諸々きちんと聖書を踏まえているみたいなだけに大丈夫なのかという悪ノリが色々と楽しい感じでした。
ただ、ストーリーの方は悪ノリ過剰ながら綺麗にまとめようとしている感じがしてちょっとノりきれなかった感じ。作品全体としても、この作者の澄んだ空気を持った文章とドタバタなコメディがどうも食い合わせが悪く感じがします。
そして話の軸にもなっている家族愛の部分がいまいち伝わリにくかったかなと。キリスト教だから無償の愛なんだと言われれば返す言葉もありませんけど!
あとは、主人公の祐太の大変なことがあっても淡々と流れに身を任せる無気力と紙一重な態度が、ただ鈍感な感じともまた違ってなんだか好みでした。しかも忍耐強くて家事も完璧で先輩女子生徒に女装させられそうになるな可愛い男の子とか、この作品の読者に需要があるのかなと思いつつ、個人的には大歓迎なのでとても良いと思ったりするのでした。