偽物語 上巻 / 西尾維新

偽物語(上) (講談社BOX)

偽物語(上) (講談社BOX)

続編が出るたびに作者の趣味度が上がっていくこのシリーズ。本作は「200パーセント趣味で書かれた小説」で世に出すつもりはなかったと作者が言うのも納得な内容でした。
というのもこの作品、50%以上がキャラクター同士、というよりも暦とヒロインたちの掛け合いが占めているという、玩具付きの駄菓子みたいな驚きの一冊。しかもその会話も今までよりもさらに暴走して壊れ気味のキャラクターたちに、古いものから新しいものまで取り揃えたオタクネタ、そしてアニメ化いじりのメタネタまで何でもこいの状態。
何しろ最初から戦場ヶ原には監禁され、八九寺にはセクハラを働き、千石に露骨に誘惑され、忍とは一緒にお風呂に入り、神原の全裸を見て、羽川には半裸を見られるというある意味畳みかけるような展開で、しかもその内容がお話自体には半分くらいしか関わってこないなのだからなんともはや。
ただこの小説が凄いのは、そのキャラクター同士の掛け合いがこの上ないほどに面白いという点。阿良々木ハーレムと作中でも言及されるように、ハーレムラブコメ、あるいはギャルゲーのフォーマットをそのまま持ち込んだような構成。さらにキャラクターもツンデレに妹にスポーツ少女にとテンプレ的で、発生するシチュエーションまでテンプレ。その中で、お約束な部分を少しづつずらしながら、キャラクターもそこで起こるイベントも非常に魅力的なものにしてしまう作者の手腕は、毎回のことながら凄いものがあります。
そしてテンポの良い言葉の応酬の魅力と言ったら! しかもヒロインごとに全く違うタイプの掛け合いを見せてくれるのだから恐れ入ります。その中でも、個人的には八九寺と暦の掛け合いがツボで仕方がありませんでした。ボケと突っ込みとがくるくる入れ替わる、お互いに相手のことをよく分かった上での軽口の応酬という感じがとても素敵。そしてシンプルに、八九寺のようなタイプのキャラクターは好きです。なんという良くできた子なのかと。
本筋の方の、ファイヤーシスターズが巻き込まれた怪異絡みの話もこれはこれで面白かったし暦の格好良い兄っぷりは大いに見どころではあったのですが、今回はちょっと掛け合いの方に呑まれている感じ。その辺りは下巻の方に期待ということで。